イタリアヨーロッパの歴史古代ローマ

古代最強のローマ軍に反旗を翻した剣闘士「スパルタクス」を元予備校講師がわかりやすく解説

スパルタクスの敗北

度重なる敗北により対処を迫られたローマ元老院はスラ派の有力者であるクラッススに反乱鎮圧の全権を与えます。クラッススは合計6個軍団、兵力4万~5万人を配下とし、南イタリアに居座るスパルタクス軍と対峙しました。

スパルタクス軍が北上した時、クラッススはスパルタクスたちの進路の前に立ちふさがります。この戦いはクラッススの勝利に終わりました。クラッスス軍は各地の中小規模の戦闘でも勝利を重ね、スパルタクスたちを半島南端部のカラブリア地方に追い詰めていきます

ちょうどそのころ、小アジアの戦争で勝利したクラッススのライバルである武将ポンペイウスの軍団がローマに戻りつつありました。スパルタクスの反乱を早期に鎮圧しなければ、クラッススの功績はポンペイウスに奪われるかもしれません。

クラッススは全軍に総攻撃を命じました。反乱軍は制圧されスパルタクスも戦死します。捕虜となった全ての反乱兵たちはアッピア街道に沿って十字架に磔にされ秩序を回復しました。

スパルタクスの乱の影響

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スパルタクスの乱はこの時期に相次いだ奴隷反乱の中で最大、そして最後のものとなりました。反乱を鎮圧したクラッススはポンペイウスやカエサルとともに第一回三頭政治をおこないます。スパルタクスの乱後、ラティフンディアにかわってコロナトゥスとよばれる新しい仕組みが浸透しました。また、近代に入ると啓蒙思想家のヴォルテールなどはスパルタクスの反乱を「歴史上唯一の正しい戦争」と評し、スパルタクスを再評価します。

第一回三頭政治とクラッススの最期

ポンペイウスの帰国前にスパルタクスの反乱を鎮圧したクラッススは共和政ローマの中で影響を強めました。しかし、ポンペイウスとの関係は悪化の一途をたどります。

ポンペイウスとクラッススの間に入り、彼らとともに新しい政治を行ったのがカエサルでした。カエサルとポンペイウス、クラッススが行った政治を第一回三頭政治といいます。

第一回三頭政治は有力者が元老院と対抗するための政治同盟でした。カエサルはガリアを、ポンペイウスはイベリア半島を、クラッススはシリアを勢力基盤とすることに成功します。

ローマでのさらなる勢力拡大を狙ったクラッススはシリアから東方のパルティアに向けて進撃しました。しかし、カルラエの戦いでクラッススはパルティア軍に大敗。軍旗をパルティアに奪われ、クラッスス自身も戦死しました。

ラティフンディアからコロナトゥスへの変化

共和政末期から帝政にかけて、ローマの大土地所有は大きく変化していました。領土の拡張が停滞し、ローマに流入する奴隷の数が減少したことも変化の一因でしょう。

こうした中で生まれた新たな仕組みを歴史用語でコロナトゥスといいます。大土地所有者は解放奴隷(元奴隷)の一部や没落した中小農民に土地を貸し付けて小作料を得るようになりました。

こうした小作人たちのことをコロヌス、コロヌスを前提とした土地制度をコロナトゥスといいます。

時代が進むにつれ、コロヌスたちは土地に縛り付けられるようになりました。4世紀の皇帝であるコンスタンティヌスはコロヌスの移動を禁止し、完全に土地に縛り付けます。土地に縛り付けられたコロヌスは中世ヨーロッパの農奴の原型となりました。

近代に「正しい戦争」と評価されたスパルタクスの乱

古代ローマの時代、スパルタクスは共和政ローマを破壊しようとした大悪人とされます。ポエニ戦争で幾度もローマ軍を苦しめたカルタゴの名将ハンニバルと同じように、ローマの脅威とみなされたからでした。

近代に入るとヴォルテールはスパルタクスの反乱を抑圧に対する抵抗として再評価。18世紀後半の市民革命や19世紀に現れる社会主義思想の中で、スパルタクスの評価はプラスに転じます。

ハイチ革命を成功させたトゥサン=ルーヴェルチュールは「黒いジャコバン」のあだ名のほかに「黒いスパルタクス」ともいわれました。また、「資本論」の著者カール=マルクスはスパルタクスを古代プロレタリアートの真の代表者と評します。

20世紀に活動したドイツ社会民主党左派のローザ=ルクセンブルクカール=リープクネヒトはスパルタクスを高く評価し、政治結社の名をスパルタクス団とするほどでした。

スパルタクスの反乱は後世に大きな影響を与えた

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スパルタクスの反乱は1年に満たない短期間に終息し、反乱軍はことごとく処刑されました。しかし、彼らの放棄は古代ローマの歴史や近代以降のヨーロッパに大きな影響を与えます。貧困層の富裕層に対する戦いというテーマが普遍的な意味合いを持つからでしょう。貧富の差が問題となっている現代、再びスパルタクスが高く評価される時代が到来するかもしれませんね。

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