【文学】中里介山「大菩薩峠」メイン登場人物を紹介!超グダグダ幕末エンタテインメント小説をご案内
お銀さま――悲運の中の激しいお嬢様
徳川家が幕府を開くよりもずーっと以前から続く旧家で良家、それが藤原家です。そこの娘・お銀さまは四谷怪談のお岩もびっくりの、ひどい顔。本当はとても美しいお嬢様でしたが、幼いころに事故で顔が二目と見られない姿になったのです。
彼女はふとしたことから出逢った、旅のさなかのお君をかわいがります。そのお銀様に召し使われていたお君を駒井能登守が見初めたことから、物語は転がりだすのです。気性の激しい、複雑な環境で育った彼女。勢いで神尾主膳に嫁入りするという話まで出ますが……。
彼女は自分の顔が見えない、ありのままの自分をあつかってくれる、盲目の机竜之助を愛するようになります。机竜之助と類は友を呼ぶ関係でつながる敵である神尾主膳に対し、憎悪の念を燃やしながら、血と欲に飢える机竜之助のそばに居続ける、執念の女です。
盲目の法師・弁信と、美少年・茂太郎
中盤以降から登場するのが、房州(千葉県)コンビの弁信と茂太郎です。弁信は若き盲目の僧侶で、ひょんなことから旅に出ることになります。とにかくこの坊さん、おしゃべり!弁信のおしゃべりがはじまったと思ったら最後、聞く側(読む側)は覚悟しなければなりません。ペラペラと語る彼の長話ですが、なんだか愛くるしくて憎めません。
美少年の茂太郎はお寺に預けられていましたが、彼にはなんと動物と仲良くなるという特技がありました。それを聞きつけた女軽業師のお角がはるばるスカウトにやってきます。江戸に出た彼はお角の見世物興行で芸を披露することとなりました。そこから茂太郎の運命は転がり始めます。
机竜之助、そして神尾主膳とふしぎな因縁で関係する弁信。お角とお絹の新たなトラブルのもとになっていく茂太郎。行く先も帰るあてもない2人はどこへ向かうのでしょうか。
雪ちゃん、浅吉――白骨温泉の地で
机竜之助の物語には、彼のそばに寄り添う女が欠かせません。そのうちの1人が、お雪ちゃん。彼女はひょんなことから机竜之助と出逢い、盲目の彼のために信州(長野県)の白骨温泉へ同行します。無邪気でやさしく、ともすれば無防備な女の子です。そんな性善説の中で生きる娘お雪ちゃんは、冬籠りの白骨温泉で紅一点のヒロインとなります。
さてその白骨温泉で、机竜之助とお雪ちゃんは1組の男女に出逢いました。その片割れの浅吉は、ある後家さん(未亡人)の男妾(おとこめかけ)、愛人です。精力絶倫の後家さん「イヤなおばさん」に生命力を吸い取られるようにして弱り果てる浅吉。彼は困った挙げ句、追いつめられた人間が必ず行き着く考えにたどり着くのですが……机竜之助はそれに対して、いかに。
白骨温泉以降は、正直言って中里介山もかなりダレています。しかし魅力ある人物の躍動や、作者・中里介山の思想の変遷……読むほどに味わいが変わる、人間讃歌のようにも読めますよ。
田山白雲、マドロスーー駒井のもとへたどり着いた異邦人たち
お君との件で役目を退いた駒井甚三郎は、房州で造船をはじめとして西洋学問の建久に励みます。そんな彼に共鳴して友人となったのが、絵師の田山白雲。腕っぷしが強く豪快なこの絵師は、ひょんなことから見かけた西洋の聖母マリアの絵を見て衝撃を受けました。西洋絵画にあこがれる彼は、同じく心を海の外に向ける駒井甚三郎と仲良くなるのです。
マドロスは漂流して駒井のもとへたどり着いた、西洋人の船員。どうにもタチの悪い人物です。酒癖がすこぶる悪く、女にだらしなく。駒井の家へやって来たその最初から大変な騒ぎを起こします。絵師に似合わぬ力を持つ田辺白雲が、このマドロスをとっちめている間はなんとかなるものの……本作のトラブルメーカーの1人です。
田山白雲やマドロスが登場するこのあたりから物語は作者・中里介山の概念的な世界に移ります。筆は冗長となり、ぼんやりとした白昼夢を歩むかのよう。彼らは一体どこへ向かっていってしまうのでしょうか?
道庵先生――トリックスターな「十八文」のお医者
この記事の最期に紹介するのは、医者の道庵先生。序盤から登場して話を引っかき回すコメディ要員、『大菩薩峠』のトリックスター的な存在が、この道庵先生です。貧乏人にも十八文という格安医療費で診察を行い、ガラッパチでひょうきんな言動に似合わずすごい名医。
酔っぱらうとお調子者に拍車がかかり、庶民のお祭り騒ぎにかつぎだされたり、トラブルの仲裁をしたり、人に愛されるキャラではあるもののいかんせんアル中。彼が登場する時はたいてい酔っ払いモードです。なにがなんでも十八文しか患者からもらわない道庵先生。愛嬌があるムードメーカー的存在です。
彼は机竜之助、兵馬、お松、米友、弁信、茂太郎など人物のほぼ全員と絡んでは影響を与えます。まさしくトリックスター。彼のお調子者極まれり、な活躍っぷりも見どころの1つですよ。
登場人物たちは、流れ流れて一体どこへ?
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『大菩薩峠』は未完の大長編小説です。しかし未完とあなどるなかれ、超ド級のおもしろさ!現代のライトノベルや漫画もびっくりの、立ちまくったキャラクターが私たちを魅了します。行くあてがないゆえに永久にさまようかに見える、机竜之介はじめ登場人物たち。いつしか魅了されて、前へ前へと読み進めてしまいますよ。夢中になれる読書をしたいあなたに、オススメです。