印象派と称されるドビュッシーの生涯
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まずはドビュッシーが作曲家としての道を目指すまでの過程や彼の作る曲の傾向について軽く触れていきます。数多くの名曲を生み出す作曲家として名を馳せたドビュッシー。音楽関係という点では一緒ですが、最初は作曲家ではなく、ちがう職業を目指していたのです。
作曲家を目指すまでの道
ドビュッシー(1862年〜1918年)は、そのフルネームをクロード・アシル・ドビュッシーと言います。1862年8月22日、フランスのサン=ジェルマン=アン=レーに陶器店を営む父親と裁縫師の母親の息子として生まれました。両親はその後転職します。兄弟は5人おり、ドビュッシーは長男です。ドビュッシーの子供時代のことはあまりよく分かっていないそうなのですが、ショパンの弟子とも言われる女性からピアノを教えてもらっていたことは分かっています。
そしてドビュッシーが10歳になっていた1872年10月。彼はパリ音楽院へ入学します。最初はピアニストとしての道を志していたドビュッシー。ピアノでも才能はあったようですが、なかなか思うように賞が取れず苦しんでもいたようです。彼は同時にチャレンジしていた作曲家としての道へ進むこととなりました。
ドビュッシーが作る曲の特徴は?
ドビュッシーの曲を分類すると、「印象派」となります。印象派と聞いて、音楽のほかに思い浮かぶもの。それは絵画ですね。「絵画の世界における印象派」には、クロード・モネ(1840年〜1926年)や、ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841年〜1919年)がいます。「音楽の世界における印象派」というのは、「絵画印象派」があってこそ生まれたものなのです。
「印象主義音楽」では、自然界のもの(匂い、風、波など)に着目して、その変化の様子をあらわすようなイメージの音楽が作られます。具体的には、不協和音を多く使ったり、テンポをかっちり定めなかったりするのが特徴です。「印象主義音楽」でもっとも代表的な存在としてあげられるのがドビュッシーで、ほかにはモーリス・ラヴェル(1875年〜1937年)らがいます。ドビュッシーから始まったとされる「印象主義音楽」ですが、本人はあまり認めていなかったそう。彼は自分の作品については、フランスの詩人シャルル・ボードレール(1821年〜1867年)らに代表される「象徴主義」のものであるとしています。
ドビュッシーの名曲たち
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簡単ではありますが、ドビュッシーの曲を聴く上で知っておきたい生い立ちや知識について紹介が終わりました。ここからはいよいよ作品について紹介していきます。ドビュッシーが作った曲で、現存している一番はじめの曲は『フーガ』。これは16歳のときの作品です。それ以降、たくさんの名曲が彼の手によって生み出されていくことに。ここでは、主に「ピアノ曲」を紹介していきます。
#1 絵画にインスピレーションを受けた『喜びの島』
まず最初に紹介するのは、『喜びの島』。1904年に作曲されました。タイトルからして楽しそうでわくわくしてしまうようなこの曲は、ピアノの独奏曲です。華やかとも幻想的とも言えるトリルによって始まる冒頭部分も印象的。トリルなどの装飾音・リズムによって、愛のよろこびについて描き出しているのです。
この曲の元になった(ドビュッシーが影響を受けた)絵画というのがあります。それは、ロココ様式の代表的な画家・アントワーヌ・ヴァトーによる『シテール島への巡礼』という作品。シテール島への船出前の様子なのか、それともシテール島での様子なのかは諸説ありますが、多くの男女が描かれています。シテール島はエーゲ海に実在する島。ローマ神話において、愛と美をつかさどる女神・ヴィーナスの島とされます。もうすでに聴いたことがあるという方も、ヴァトーの『シテール島への巡礼』を鑑賞しながら『喜びの島』を聴けば、またちがった味わいがあるかもしれません。
#2 夜の月光が頭にうかぶ!『ベルガマスク組曲』より第3曲「月の光」
「月の光」は1890年頃にドビュッシーが作曲(1905年に改訂)した『ベルガマスク組曲』のなかの一曲。第3曲にあたる「月の光」は、全4曲から構成される組曲のなかでもっとも有名であると言っていいでしょう。第1曲は「前奏曲」、第2曲は「メヌエット」、第4曲には「パスピエ」というタイトルが付いています。実は前述の『喜びの島』、また『仮面』という曲も、もともとは『ベルガマスク組曲』のなかに組み入れられるはずのものでした。
「月の光」は聴いていると「綺麗な曲だなあ」という感覚なのですが、楽譜を見るとまたちがった印象を抱く曲だと思います。すごくテンポが速いわけでも指の動きがそこまで難しいわけでもないので、聴いた感じでなんとなく弾くことはできるかもしれません。しかしリズムを正確に、となると難しい。シンプルに聴こえるからこそ、こんな譜面を考えられるドビュッシーはすごいなあ、と思ってしまいます。月の綺麗さだけでなく、どこか寂しさ、悲しさも感じられるようなこの曲。フランスの詩人ポール・ヴェルレーヌ(1844年〜1896年)の同名詩、「月の光」を読んで感銘を受けた結果生まれた曲だそうです。
#3 アラビア風の装飾的音楽!『2つのアラベスク』
ドビュッシーの初期作品である『2つのアラベスク』。1888年に作曲(1891年に改訂)されたこの曲。テレビなどでも耳にする機会が多く、ドビュッシーが作ったなかでもっとも有名な曲の一つと言えるのではないでしょうか。『2つのアラベスク』は、ホ長調の第1番とト長調の第2番で構成されています。
「アラベスク」、というのはピアノ曲のタイトルにしばしばありますが、これは「アラビア風」という意味の言葉。唐草模様をはじめとした図案を指しており、それをイメージさせるような装飾的な楽曲が「アラベスク」なのです。第1番では右手と左手のリズムが異なるというポリリズムが非常に印象的。たとえば右手で3連符(1拍のなかに3つの音符)、左手で八分音符(1拍のなかに2つの音符)を演奏するのです。演奏者は頭のなかで刻む音符がばらばらになるので大変ですね。分散和音による流れるような曲調を聴くと、個人的にはなんとなく水とか波のイメージが頭に浮かんできます。