3.【第2巻】落窪の君救出作戦と幸せな生活
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物置に監禁され、辱めを受けようとする落窪の君。しかし、この事件が大きな転機となるのです。不幸のどん底から幸せの絶頂へと。そして落窪の君と少将の大逆転が始まります。
3-1.落窪の君、救出される
そんな落窪の君に対して、北の方はさらなる仕打ちに出ます。同じ屋敷の中に、北の方の叔父で典薬助(てんのすけ)という者がいました。彼の歳は60歳過ぎ。見た目が汚らしく髪や歯も抜け落ちていて、女好きが過ぎて皆から嫌われていたのです。
その典薬助をけしかけて落窪の君を手籠めにしようと策謀を巡らした北の方。しかし落窪の君が毒牙にかかる寸前のところで、侍女の阿漕が薬で典薬助を眠らせ、何とか事なきを得たのでした。
いっぽうまともに食事すら与えられない落窪の君を救い出そうと少将たちは動いていました。祭礼のために中納言一家が留守なことを幸いに、牛車で屋敷へ忍び込み、まんまと彼女を救出することに成功したのです。
そして少将の仕業と悟られぬよう、別に購入した屋敷へ一緒に移り住むことにしました。こうして不幸の中暮らしてきた落窪の君はようやく救われることになったのです。
「埋火の いきてうれしと思ふには わがふところに いだきてぞ寝る」
(この埋火が消えずに残っていて嬉しいと思うように、あなたが生きていてくれたことが嬉しいし愛しい。だから私はこうしてあなたを抱いて眠るのです)
3-2.少将の度が過ぎるいたずら
根が優しい落窪の君に対して、少将はかなり悪戯好きな性格。中納言家にちょっと仕返ししてやろうと考え、娘の四の君との結婚を受けると返事をしたのです。
母方の叔父治部卿の息子である兵部少輔(ひょうぶしょうゆう)を焚きつけて、自分の代わりに兵部少輔と四の君を契らせようという魂胆でした。ちなみにこの男は人々から「面白の駒」と揶揄されるほどの馬面(うまづら)だったのです。
少将の身代わりとなった兵部少輔は、中納言邸に二日間通い続け(当時は暗闇の中、花嫁の寝所へ忍ぶに任せるのが通例でした)、三日目の宴の席でようやく「あの馬面の男」だと露見したのでした。
少将に一杯食わされた中納言家は大混乱。中納言も北の方も大いに落胆しましたが、何より気の毒だったのは四の君。夜を共に過ごしてしまった以上は後戻りはできません。離縁させようにも「面白の駒に捨てられた」とあっては恥の上塗りになるだけでした。
3-3.少将のさらなるいたずら
時は経ち、少将は昇進して三位の中将と名乗ります。しかし今までさんざん落窪の君をいじめた中納言家を許す気にはなりませんでした。
ある時、清水詣へ北の方が向かうと聞いた三位の中将は、さっそく自分も後を追って、北の方が乗った牛車に幅寄せしたり、わざと道を塞いだり、北の方に対してさんざん嫌がらせをしたそうです。
権勢を持つ貴族でもあった中将は、さらに追い打ちを掛けます。中納言家のもう一人の娘三の君に狙いを定めたのでした。わざわざ夫を離縁させ、なんと中将自らの妹と結婚させたのです。
これはもはや、いたずらではなく落窪の君のための復讐そのもの。そう決めた中将はやるからには徹底的でした。
3-4.幸福な中将との生活
いっぽう中将と落窪の君が移り住んだ屋敷では、人手が足りぬために大勢の人を雇い、阿漕も立派な女房となって「衛門(えもん)」と名を変えていました。かつての中納言家からは「優しくしてくれる姫様がいる」ということで多くの侍女たちが落窪の君の元へ集まってきたのです。
ところが、落窪の君と中将は正式に結婚していません。ある時、正妻がいない中将にある縁談が舞い込みます。それは右大臣の娘を是非に。というものでした。
その気がない中将でしたが、彼が知らないところで乳母が勝手に良い返事をしてしまったのです。それを人伝てに聞いた落窪の君は落胆してしまうことに。何も知らない中将がいぶかしく思って問い詰めても、何も答えない姫なのでした。
やがて他から事の顛末を聞いた中将は、落窪の君に優しく語り掛けます。
「あなたが辛いと思うことを私がするわけがない。たとえ帝の姫を嫁にくれると言われても断るつもりだ。」
こうして右大臣家との縁談は破談になりました。
3-5.子供の誕生
やがて中将家にとってさらにうれしいことが!なんと落窪の君が懐妊したのです。
そして無事に男の子が生まれました。幸せは続くもので、中将はさらに昇進して衛門督(えもんのかみ)という高官となりました。その翌年にはまた男子が生まれ、衛門督家はますます繁栄していくのです。
毎日のように衛門督家には来客が訪れ、家は賑やかになってなっていきます。かたや落窪の君がかつて暮らしていた中納言家は運が傾き、不幸ばかり訪れるようになりました。
中納言家とはちょっとしたトラブルが絶えなかったものの、かつてあれほどいじめられていたにも関わらず、優しい落窪の君は中納言家の人々を心配するのでした。
4.【第3巻】再会と和解
衛門督との幸せな生活を謳歌していた落窪の君。しかし、その心の中には自分を育ててもらった中納言家のことがありました。「いずれは中納言家と和解しなければ…」そう考えていた彼女でしたが、ある時転機を訪れます。
4-1.中納言家をやり込める衛門督
悪いことばかりが重なる中納言家。屋敷の方角が悪いから引っ越そうという話になりました。ちょうど落窪の君が亡き母から譲り受けた土地があり、「もう本人もどこにいるのかわからないから。」と勝手に屋敷を建ててしまったのです。
それを伝え聞いた衛門督は面白くありません。「土地は落窪の君が相続すべきもの。なぜ中納言家が横領するのか?なんとか懲らしめてやろう。」とまた策を巡らせることにしました。
そこで土地の権利が落窪の君のものだと確認できるや、衛門督は中納言家引っ越し当日に多くの人手をやって荷物を運びこみ、新しい屋敷を占拠してしまったのです。
言い分は「私こそ、この土地の持ち主だ。だからここへ引っ越しに来た。」と。困った中納言は、衛門督の父親である右大臣に事情を話しても埒が明かず、嘆き悲しむことに。これを知った落窪の君も「さすがにやり過ぎだ」と悲しみますが、衛門督は「身から出た錆」と一笑に付します。