「老子」ってどんな人物?
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老子(ろうし)は中国の春秋時代の哲学者です。『老子』(『老子道徳経』)という本が残されており、老子を受け継いだ荘子(そうし)と合わせて「老荘思想」と呼ばれる思想を生みました。また、後にできた中国の民間宗教である「道教」は老子を始祖としています。
老子は紀元前6世紀頃の人物です。司馬遷の歴史書『史記』にも登場して、孔子と面会したことがあると書かれています。しかしいろいろな記述をたどっていくと、百何十年も生きていたという計算になるのだとか。経歴も不明で、何もかも謎の人物です。実在の人物であるかも疑われるほどですが、『老子』を読むと魅力的な思想家であったことは伝わってきます。
老子の名言1・「無為自然」~ただ、あるがままに
「無為自然」。これが老子の思想をもっともよく表している言葉と言えるでしょう。自然の成り行きに任せて、手を加えないのが良いということです。これは「何もしない」という意味ではありません。不自然なこと、人工的な作為は必要ないということです。
老子は「大国を治めるには小魚を煮るようにしなければいけない」と言っています。どういうことかというと、小魚を煮る時にあまり鍋をかき回しているとグズグズに溶けてしまいますよね。それと同じで、政治もあんまり国民に干渉せず、自然に任せるほうがうまくいくのだということです。
老子はもっと具体的に、「民衆が飢えるのは、余計に税を取り立てるからだ」とも言っています。むやみに税金を上げる政治家に聞かせたいと思いませんか(笑)。「無為自然」とは言うものの、結構辛口の政治批判をしている人でもあるんですね。
老子の名言2・「上善は水のごとし」~しなやかに生きよう
原文では「上善如水」。日本酒の名前にもなっていますね。「最上の善は水のようなものである」という意味です。水は草花や人間などいろんなものを潤します。それに常に流れて、形を変えていきますよね。それでいて川の流れは大きな岩を動かすほど、時に力強いものがあります。そして最後は低い土地へと流れていくものです。
人間も水のように柔軟で、無理をせずに生きて、人の下に立つようなことも恐れない。それがいざという時に、大きなものを動かすパワーを生むんだということなんですね。どうしても我々のような凡人は肩ひじ張ってツッパって生きてしまうものですが、それではあちこちにぶつかって傷つくだけだぞというわけです。
老子の名言3・「善く戦う者は怒らず」~争わないことが大事
「善く(よく)戦う者は怒らず(いからず)」とは、「上手に戦う人は怒らないものだ」という意味です。老子は「相手の挑発に乗って怒ってはいけない」と言うんですね。怒るというのはある意味相手に乗せられるということなので、それは「自然」ではないということなんです。
また、「うまく勝つ者は争わない」とも言っています。下手にバチバチに争って、たとえ勝ったとしてもダメージを負ってしまったら意味がありません。だったら、相手の力をうまく利用して、物事を成功に導いたほうが賢いわけですね。老子が生きていたのは戦争の絶えない戦国時代でした。そんな時代でうまく生きるコツというのが、「争わないこと」だったのでしょう。それは争いの絶えない現代の社会や、国と国との関係にも当てはまるかもしれませんね。
老子の故事成語あれこれ
最後に老子の有名な故事成語を見ていきましょう。
「天網恢恢疎にして漏らさず」(てんもうかいかいそにしてもらさず)・「天の張る網は目が粗いようだが、決して悪人を逃がすことはない」という意味。悪いことをしても天の正しい道はそれを見逃さないぞということです。
「舌は禍い(わざわい)の根」・争い事というのは言葉によって生まれるから、言動には注意しなさいよということですね。「口は災いのもと」と同じ意味です。
「大器晩成」・優れた者はゆっくり成長するという意味。
「千里の行(こう)も足下(そっか)に始まる」・千里もの長い旅路も足元の一歩から始まるということ。「千里の道も一歩から」と同じ意味です。遠大な計画も、まずは手近なところから始まるからおそろかにしてはいけないということですね。
「柔よく剛を制す」・柔道で有名な言葉ですが、元々は「老子」の言葉です。強くて固い物のほうが強いと思われがちだけど、本当は柔軟で弱い物のほうが壊れないものなんですね。言われてみれば、これもいかにも「老子」っぽい言葉ではあります。
「老子」は名言の宝庫!
こうして見ると、よく知ってる言葉も「老子」が元ネタだったということに驚かされますね。この他にも「老子」にはまだまだ名言が書かれています。薄い本ですし、解説書もたくさん出ていますので、ぜひ「老子」を読んで人生のヒントを探してみてください。