平安時代日本の歴史

光源氏は理想の浮気男?人でなしのクズ?プレイボーイの正体を解説

プレイボーイの代名詞〈光源氏(ひかるげんじ)〉。平安時代に紫式部によって書かれた長編恋愛小説「源氏物語」の主人公として誕生した彼は、一体どんな男なのでしょう。見る人を幸せにする美貌をもつ光源氏の真の姿は?愛読書は源氏物語、読み返すこと数十回。そんな筆者が愛と罪と哀しみの男・光源氏の正体を解き明かします。

〈光源氏〉ってどんな男?「源氏物語」のあらすじをざっくり解説

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まずは平安時代を代表するプレイボーイ「光り輝くばかりに美しい男」光源氏の生涯をご紹介。帝(天皇)の皇子として生まれ、臣に下り、数々の女性と恋を繰り広げた光源氏。父の妻から人妻、おばあちゃんに幼女、親子ほども歳の離れた内親王など、幅広い守備範囲で女性を愛した男は、なにを心に秘めていたのでしょうか。

愛の放浪時代~藤壺の宮から六条の御息所、葵の上

〈光源氏〉〈光る君〉という名前は愛称。桐壺帝の第2皇子(次男)として誕生した光源氏。母親の桐壺の更衣の身分が一段低かったため、皇族の身分から外れて臣下となります。後見人となった左大臣の娘〈葵の上〉と結婚。しかし光源氏の心は幼い頃親しくし、亡き母の面影を宿した藤壺の宮への恋に苦しみます。藤壺の宮は父帝の后。つまり義理の母を好きになってしまったのでした。

心の空白を埋めるために、恋の放浪がはじまります。プライドの高い年上の貴婦人〈六条の御息所〉。絶世のブス女〈末摘花〉好色おばあちゃんの〈源の内侍〉など、若気の至りのこっけいな恋愛談もこの頃です。そんな中で光源氏は藤壺の宮との密会に成功し、藤壺の宮は彼の子供を妊娠、出産。不義の子は桐壺帝の息子として育つこととなるのです。

一方、葵の上は光源氏の子供を身ごもります。が、葵祭りの見物で六条の御息所の物見車と場所取りの諍いを起こし、六条の御息所の憎しみを買ってしまうのです。葵の上は男の子〈夕霧〉を出産ののち亡くなります。

最愛の妻〈紫の上〉運命の女〈明石の方〉位人臣を極める光源氏

光源氏の放浪が一段落したのは葵の上の死後。偶然見初めた10歳の少女、手元で養育していた藤壺の宮の姪、15歳の紫の上と結婚してからです。初恋の人の面影を宿した紫の上を生涯、最愛の妻として愛することになるのでした。

一段落したとはいえ光源氏のアヴァンチュールは続きます。兄帝〈朱雀帝〉のもとで寵愛を受けている〈朧月夜〉と密会を続けて、朱雀帝の母后の怒りを買うことに。この恋愛事件を拡大させて謀反の疑いをかけられた光源氏は京を離れ、須磨に隠棲することを決意します。2年にわたる隠棲生活、彼はたどりついた明石で〈明石の方〉と出会い、女の子をもうけました。のちの〈明石の中宮〉となる姫です。

光源氏は京へ帰還したのちは順調に出世コースを登ります。藤壺の宮との不義の子は〈冷泉帝〉として即位。太政大臣までのぼりつめた光源氏は広大な屋敷〈六条院〉を完成させます。その一部は中を細かく仕切り、そこには空蝉や末摘花など、少しの関係しか持たなかった女性の生活をも生涯保証したのでした。

准太上天皇へ〈女三宮〉との結婚、苦悩の晩年

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光源氏の妻といえば紫の上ですが、晩年にもう1人妻を、それも正妻を迎えていたことをご存知でしょうか。光源氏の兄〈朱雀院〉の内親王(娘)、〈女三の宮〉です。朱雀院は自身の出家にあたり、独身のままにしておくには頼りない姫宮を心配して「紫の上を育てたように、女三の宮を育てつつ守ってほしい」と光源氏に頼みます。女三の宮が初恋の女人・藤壺の宮の姪であることを思いだした光源氏は、断れない筋の頼みでもあり、女三の宮の御嫁入りに同意しました。

しかしやってきた14歳の女三の宮はお人形のような少女。感受性もとぼしく、藤壺の宮に似たところもない姫宮は期待外れでした。その上光源氏の留守中に強引に迫られてとはいえ、若い公達〈柏木〉との不義の子を宿してしまいます。女三の宮は出産後の病気にたくして出家してしまいました。

晩年の光源氏は栄耀栄華の陰で、六条の御息所の死霊に祟られた紫の上の病気、女三の宮の不倫、女友達や恋人たちの出家など多くの苦悩と喪失に襲われます。自らの一部とも慈しんだ最愛の妻・紫の上を亡くした光源氏は出家したとされていますが、最後の章『雲隠れ』は白紙。散逸したとも最初から書かれなかったとも伝えられます。

作中でどんなふうに言われている?光源氏を紐解くキーワード

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光源氏の恋愛遍歴、いかがだったでしょうか。関係を持った女性は12人余り、愛人にした女房や女友達を含めると数はさらに増!そんな光源氏はなぜ人々に愛され、尊敬されたのでしょう?「源氏物語」を読み解くとキーワードが見えてきます。その3つを追いましょう。前生の因果、見ていると幸福になる美貌、そしてすべての女性の美点を認める寛容さです。

前世がよかった?光源氏がステキな理由

源氏物語そのものを読み解く上でのキーワードが「前世の因果」「前生の善果」という言葉です。紫式部が源氏物語を書いたのは、仏教の世界観に支配されていた平安時代。現在の生における容姿や性格、人格、頭脳などは前世での行いの結果であるという考え方です。そのため源氏物語を読んでいると「前世が良かった」「どんな素晴らしい前世を持った方なのだろう」と繰り返されます。努力の賜物、とかじゃないんですね。

行いは自分に返ってくる、という因果応報の概念は「源氏物語」の物語を貫いています。光源氏に打ちやられ、怨みが止まらなくなった六条の御息所の生霊による〈夕顔〉の死、〈葵の上〉の死。光源氏の口から出た六条の御息所の悪口を聞いた紫の上は瀕死の重病にかかり、女三の宮は出家してしまいます。父の妻・藤壺の宮との不義の子が帝位についたその応報として、自らもまた血のつながらない、妻・女三の宮の不倫の結果である「我が子」を抱くこととなるのです。

見るだけで幸せになるイケメン

強制的な夜這い、複数の妻や恋人、ちょっと気になる女性には人妻でもなんでもすぐに言いより……など、光源氏の行動を見ていると「このクズ!」「浮気男!」と叫びたくなります。しかし不思議と光源氏の周囲の女性は(嫉妬やあきらめこそあれ)あまり文句を言いません。なぜか彼を愛してしまうのです。

その正体を紐解く鍵となるのが、作中で繰り返される「光源氏は美しい」連呼。見ているだけで幸せになる美貌……紫式部も作中で「何度も同じことを書いてしまうが、実際にそうなのだから仕方がない」というようなことを断っているほど。たとえば、光源氏の兄君である朱雀帝(のち朱雀院法王)は以下のようににコメントしています。ひと目見るだけで、いっしょにいるだけで幸せになってしまう……そんな男性なら仕方がないのでしょうか。

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