旧暦・新暦って何?なぜズレる?奥深き暦(こよみ)の世界をわかりやすく解説
明治維新と近代化:「天保暦」から「グレゴリオ暦」へ
明治維新後、新しく誕生した明治政府は、西洋に追い付け追い越せと奮闘。海外から様々な技術や文化が入ってくる中、暦をどうするべきか、様々な議論が交わされます。
欧米諸国は概ね、太陽暦の一種「グレゴリオ暦」を使用していました。
一方の日本は、天保15年(1844年)に行った改暦の後「天保暦」と呼ばれる太陰太陽暦を使っています。
太陽暦への改暦か、太陰太陽暦の続行か……。
太陽暦は太陰太陽暦と比べて、閏年(閏月)の管理が比較的シンプルで、暦の管理がしやすいという利点があります。
また、これから欧米諸国と対等にやりあうなら、暦も同じにしておいたほうが何かとやりやすい。
しかし、1000年以上使ってきた太陰太陽暦を変更するとなると、そう簡単なことではありません。いつ、どういうタイミングで行うべきか……強引なやり方は人々の生活に大きな影響を与え、世の中が混乱することは目に見えています。
しかし、明治政府は突然、改暦に踏み切りました。半ば強引に、それまで使用していた太陽太陰暦「天保暦」を止め、西洋の太陽暦「グレゴリオ暦」に合わせることにしたのです。
明治改暦:明治5年12月3日が明治6年1月1日に?
具体的に何をしたかというと……。明治5年(1872年)の12月3日を、明治6年の1月1日にして、この日から太陽暦をスタートさせました。
この日を境に、天保暦は旧暦、グレゴリオ暦が新暦となります。
1ヶ月近くも消し去られたことになりますが……。明治6年は閏月の調整が入る年だったので、明治5年の年末の時点では、太陽暦との間に1ヶ月近い時差が生じていたのです。
混乱は必至でしたが、どこかで思い切ったことをしないと、いつまでたっても状況は変わりません。何年か時間をかけて根回ししたほうがよかったのかもしれませんが、明治政府は明治5年の11月9日に改暦を発表し、翌月の12月3日に実行。人々は明治5年の年の瀬の雰囲気を味わうことなく正月を迎えたのです。
ただ、改暦の後も、しばらく混乱は続きました。明治6年には、太陽暦の暦の販売は間に合わず、行事や儀式なども影響が及んだようです。
また、いくら改暦をしたからといっても、過去の出来事の発生日まで置き換えるわけにはいきません。一応、太陰太陽暦から太陽暦の日付を算出することは可能ですが、歴史上の出来事なら史料の記録どおり旧暦で書き表したほうが分かりやすい。
しかし、新暦に置き換えたほうが、今から何年前の出来事か、より正確に理解することができます。
「本能寺の変は天正10年6月2日(1582年6月21日)」という表記には、日本の暦の長い歴史が刻まれているのです。
お盆は7月?8月?季節のズレと旧暦・新暦の関係
余談になりますが、皆さんのお住いの地域では、お盆は7月でしょうか、8月でしょうか。
なぜ、お盆を7月にやる地域と8月の地域があるのでしょう。これにも、明治改暦が関わっています。
明治改暦の後、明治政府は一般国民に対し、お祭りや行事なども新暦で実施するよう命令を出しました。役所や神社、お寺などはバタバタと太陽暦に換算した日程を出して行事を行っていたようです。
しかし、お盆だけは事情が違っていました。
お盆とは、お寺や神社の行事ではなく、家族や親せきが集まってご先祖様をお迎えします。旧暦の頃、お盆は7月15日を中心に行われていました。
これが、明治改暦によって1ヶ月近く前倒しになったわけですから、明治6年の7月15日は去年より早く訪れて、まだ農作業が一段落していないよ、お盆の準備どころじゃないよ~という農家の人が多かったのです。
国民の大半が農業に携わっていた明治初期の日本。いくら政府のお達しでも、これから毎年、新暦の7月15日にお盆をやらなければならないとなると負担が大きすぎます。ゆっくりご先祖様をお迎えしたいのに……そのことは、明治政府もよくわかっていたようです。
そこで、お盆に関しては、スケジュールを強制せず、新暦の7月15日に実施するか、それとも暦の上では1ヶ月ずらして去年と同じ時期にお盆を実施するか(8月15日前後)、地域の事情に合わせてお盆を行うようになりました。
現在では、農業に関わりのない人が多く住まう都市部や、東北や北陸地方などでは7月15日前後に、それ以外の地域は8月15日前後にお盆を行うことが多いようです。
暦って奥が深い!旧暦・新暦の違いから見る日本の歴史
最近のカレンダーには、六曜や二十四節気 七十二候など、雑節を記したものが少なくなっているようです。西暦がわかれば生活に困ることはありませんが、日本のように四季がはっきりしている国で生活するなら、もっと暦に季節感があってもよさそうな気がします。暦は日本の文化。旧暦・新暦の違いについて考えながら、ふと、そんなことを感じました。