日本の歴史昭和

なぜ町からトイレットペーパーが消えた?オイルショックの真実

人々がトイレットペーパーを買い占める映像が印象的な昭和の大事件、オイルショック。一体、何が原因でこのようなパニックが起きたのでしょうか。当時の国際情勢から石油不足が生んだ思わぬ影響まで、オイルショックの衝撃を解説していきます。

中東戦争による石油不足がオイルショックの原因

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オイルショック(石油危機)とは、中東情勢の悪化によって石油が不足し、さまざまな経済的な影響が出たという事件です。一般にオイルショックと呼ばれる事態は、2回起きています。第1次オイルショックは1973年、第2次オイルショックは1979年。このうち、特に大きな影響が出たのは第1次オイルショックでした。

もちろんこの事件は世界各国に影響を与えたのですが、特に日本では大きな影響が出ました。日本では石油を中東諸国からの輸入に依存していました。また、経済成長を遂げた日本ではエネルギーの中でも特に石油を使う割合が高かったんです。

第4次中東戦争によって石油価格が急上昇

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石油の値段が上がったのは、「第4次中東戦争」という戦争がきっかけでした。イスラエルとアラブ諸国は何度も戦争を繰り返していましたが、1973年10月にはこれまで不利に立たされていたアラブ側がイスラエルに先制するという形で戦争が勃発。石油を輸出する国は「石油輸出国機構(OPEC)」という組織を作って原油の価格を調整していたのですが、アラブの加盟国が大幅な値上げを宣言するという事態になったのです。原油公示価格は1バレル3.01ドルから5.12ドルへ約70%引き上げられました。

また、「アラブ石油輸出国機構(OAPEC)」諸国はイスラエルに味方する国家には石油を売らないという方針を打ち出します。日本はイスラエルともアラブ諸国とも中立的な立場でしたが、アメリカはイスラエルと強固な同盟関係にありました。日本はアメリカ陣営ですから、イスラエル側と見られる可能性があったんですね。そこで緊急に石油をどう確保するかという問題が生じました。

オイルショックによる「狂乱物価」

石油はあらゆるものに使われていますから、石油の値段が高くなれば物価も上昇します。こうして日本は猛烈なインフレ(インフレーション)に陥ったのです。あまりにも物価が上がったので、「狂乱物価」と言われました。もともと当時の日本は円高で不況だったのですが、1973年に石油不足から公共事業を停止するなど、需要を抑制する政策を打ち出さざるを得なくなります。1974年には消費者物価指数が23%も急上昇。戦後初めてマイナス成長となり、高度経済成長はここで終わったのでした。

ところで、JR東日本の初乗り運賃は2019年現在140円(切符の場合)です。消費税の増税で値上げしましたが、1995年から約20年ほどずっと130円でした。1982年はJRの民営化前でまだ「国鉄(日本国有鉄道)」でしたが、初乗り運賃は120円。ところが、オイルショック前の1973年はなんと30円だったんです。わずか10年足らずで4倍になってしまったんですね。この当時の物価上昇のスピードの速さがわかると思います。

「トイレットペーパー買い占め」はなぜ起きてしまったのか

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よく考えてみれば、トイレットペーパーは紙ですから石油が原料というわけではないですよね。製造工程で石油を使うことはあるでしょうが、だからといって日本中のトイレットペーパーが一気になくなるとは考えられません。冷静に考えれば当たり前ですよね。実際に紙の生産量が減ったわけではなく、むしろ増産しています。

ところが当時は日本中がパニックになって、トイレットペーパーの買い占めが各地で起こりました。一体、なぜこんなことが起きてしまったのでしょうか。きっかけは大阪府の千里ニュータウンという団地にある、ごく普通のスーパーで起きた出来事でした。

噂が噂を呼びパニック状態に

もともと「紙がなくなる」という噂があったところに、そのスーパーがたまたまトイレットペーパーの大安売りをしたんですね。すると、開店前から何百人もの人々が行列を作ってトイレットペーパーを買いました。その様子が新聞に載ったことから、人々は不安になりトイレットペーパーの買い占めに走ったのです。

そうなると、今まで冷静に見ていた人も現実に店からトイレットペーパーがなくなっていくので確保せざるを得なくなってしまいます。トイレットペーパー不足は全国で急速に広がり、便乗して高値で売りさばく企業も出てきました。店頭にトイレットペーパーが並ぶと行列ができるようになります。現在、歴史の教科書に載っている写真はこうした時に撮られたものだったんですね。

しかしもともと生産量が落ちていたわけではありませんから、政府による緊急措置によってトイレットペーパーの価格は抑えられ、翌年3月頃には騒動は終息しました。

オイルショックが深夜ラジオブームを生んだ!?

ところでオイルショックは思わぬ影響を引き起こしました。一つは徹底的な節電、石油の節約です。近年でも東日本大震災に伴う福島第一原発事故の影響で、エアコンが止まったり、街灯が消えたりするということがありましたよね。このオイルショックの時はもっと徹底的に節電が行われました。町のネオンサインは消え、自動車メーカーがモータースポーツから撤退するという事態にもなっています。

また、テレビは深夜放送が休止となり、深夜23時にはどの局も放送終了となりました。NHKなどは夕方の放送まで休止しています。しかし深夜23時といえば受験勉強をしたりしている若者にとって寝るには少し早い時間。そこで若者たちは終夜放送をしているラジオを聴きました。「オールナイトニッポン」などの人気番組は聴取率(テレビでいう視聴率)6%を記録したそうです。テレビ並みの数字ですよね。70年代にフォークソングがブームになったのは深夜ラジオの影響が大きく、オイルショックが生んだ思わぬ副産物と言えるかもしれません。

危機の時こそ冷静な判断を

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現在でも大きな震災によって買い占めが発生することがあります。噂が噂を呼ぶパニック状態に陥ると、どうにもコントロールできなくなるという実例がオイルショックと言えるでしょう。確かな情報を知り、冷静さを失わないことが大切だということを教えてくれます。

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