忙しい現代人が読みたいチェーホフ!魅力の解説とおすすめ4作品を紹介
『ねむい』
泣き止まない赤ん坊、それをあやす小間使いの幼い女の子……赤ちゃんが寝付かないかぎり女の子は眠ることも許されません。ねむい。夢かうつつか過去と現在が彼女の目の前を走馬灯のように駆け抜けます。赤ん坊が寝ないと自分も眠れない。どうすれば?すべての読者が呆然とするクライマックスが待っています。
この作品がスゴイ点は、読んでいるあいだに女の子の「眠気」がこちらにもめまいを起こすほど伝わってくること。衝撃のラストに息がつまります。農奴出身の下層階級の悲惨を描いた、社会派短編小説とも言える『ねむい』。チェーホフ作品の中でも異色の出来です。
この作品は老若男女どんな世代にも読んでほしい短編小説ですが、特にブラック企業で苦しむ方におすすめしたいと思います。眠りたいのに自分の体をいたわることを許されない、そんな状態が続いてしまったら……。ただ「ねむい」だけの1人の少女に、社会の残酷さと悲惨さがのしかかっています。「この少女は自分だ」と思う現代人が1人でも減ることを祈るばかりです。
ねむい eBook: アントン チェーホフ, 神西 清: Kindleストア
Amazonで見る『かわいい女』
あなたのまわりにも、こんな人いませんか?オーレンカ(オリガの愛称)は、いつだって誰かを好きでいなければいられない女性。愛くるしく無邪気なオーレンカを人びとは「かわいい女!」と呼びます。彼女の考えはいつだって、愛する人の受け売り。最初の夫、2番目の夫、恋人、そして……。
「もう、自分の意見を持たないんだから!いい加減、自分で考えなさいよ!」そうイラついてしまう友人知人が、あなたの周りにも実はいるのではないでしょうか。他人の鏡になるような人って何を考えているんでしょう?その答えをチェーホフは教えてくれます。
自分を強く持ち、意見と責任を背負って人生に立ち向かっている女性にこそ読んでほしい名作。いつだって誰かに恋をしている、パートナーへの依存度MAXでその人をこよなく愛する、この作品のオーレンカ。本当に、かわいい女です。
かわいい女・犬を連れた奥さん(新潮文庫) eBook: チェーホフ, 小笠原 豊樹: Kindleストア
Amazonで見る『犬を連れた奥さん』
人間というものをひたむきに愛をこめて見つめ続けたチェーホフ、その結晶が『犬を連れた奥さん』です。筆者がチェーホフの小説作品でどれか1つ選ぶよう言われたら、『犬を連れた奥さん』を間違いなく選びます。これぞアントン・チェーホフの真骨頂。
筋は本当にしょうもない、不倫の物語。都会から来た有閑階級の若い人妻。かわいい犬を連れてヤルタの町をそぞろ歩く様はちょっとしたウワサになります。しめしめ、ちょっとつまんでやろうか……女好きの妻子持ちがちょっかいを出しておちいる、暇つぶしの浮気。ありきたりなアバンチュール。かと、思いきや。俗物的な生活と妥協にみちた日常に戻った時、2人が想ったこととは。
ラスト、感涙の「復活」です。人間の内面を丁寧に探るチェーホフが描いた愛の形はどんなものでしょう?本当の愛、真実の恋にめざめた人間の姿はまさに、復活の一言がふさわしい鮮やかさ。愛が2人の生活をよみがえらせ、破壊します。胸がおしつけられるような読後感をあなたも、ぜひ。
短い!深い!おもしろい!現代人が読むべきチェーホフ
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大都市の雑踏に生きる中で、人間を深く愛をこめて観察し、冷徹なまでに分析して戯曲や小説に仕立て上げたチェーホフ。文学者としての功績や価値はわきに置いといて、とにかくチェーホフはおもしろいです。様々な人生のパターンを描いた文豪アントン・チェーホフの作中人物は、今なお色あせることはありません。ユーモア小説時代に1000篇以上も書きこなした彼の筆のキレは抜群。あなたもぜひチェーホフの世界へ。