フランスブルボン朝ヨーロッパの歴史

「人間は考える葦である」フランスの学者・パスカルの功績をざっくり解説

パスカルの死後に刊行された遺著『パンセ』とは

パスカルの名言の多くは、彼が生前書き溜めたメモやノートをまとめた遺著『パンセ』に記されています。

「パンセ」とは、フランス語の「pense(考える)」に由来する言葉で、思想・思考といった意味を示したもの。『パンセ』には、科学者の目線で、人間の思想や心の動きを分析した言葉がたくさんおさめられています。

初版は1670年発刊。パスカル自身が編纂したものではないため、版が幾種類か存在しており、それぞれ、含まれる内容などに多少の違いが。現代に入ってからも、新しい版が編集されることもあるのだそうです。

日本でも訳本が数多くの翻訳や解説書が出版されていて、愛読者も多い『パンセ』。日々の忙しさに追われてついつい忘れがちな「考えること」の大切さを改めて教えてくれる名著です。

人の尊厳は思考し続けるところにある「人間は考える葦である」

パスカルの名言の中で、おそらくもっとも有名であろう一節です。

「人間はひとくきの葦にすぎない。自然の中で最も弱いもの。だが、それは考える葦である」……。パスカルの思いを表した言葉として広く知られています。

葦(あし)とは、川や沼などの水際に群生する植物。日本でも古来より、屋根材やすだれの材料などに使われ、馴染みの深い存在です。

この言葉の中でパスカルは、人間を「葦」というありきたりの植物になぞらえて、人間は自然界ではごくごく小さな、弱い存在であると語っています。しかし人間は「考える」力を持っている。考えることができる人間は尊い存在である……。単に「考えることは大切」と説くだけではありません。「考える」「己を知る」ということは人間の尊厳の根幹である、ということを、強い言葉で語っています。

例えば宇宙が人間を押しつぶすことは簡単。私たち人間は、宇宙が強大であることを知っているが、宇宙はそんなことは知りません。考えることこそ人間の尊厳を示す根拠なのだと……。

人間は考えることのできる葦であり、自分が弱いということも、小さい存在であるということも知ることができて、そこからどうすればプラスに転じることができるか考えることもできる、だから考えよう、パスカルはそう綴っています。

シンプルですが、深く心に響く名言です。

例えば「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら」

へえ、これってパスカルの言葉だったんだ、と思った方も多いのではないでしょうか。

クレオパトラとは「絶世の美女」と呼ばれる古代エジプトの女王。パスカルは『パンセ』の中で「クレオパトラの鼻がもっと小さかったら、世界の表情は変わったものになったあろう」と語っています。

一般的な日本語訳では「歴史は変わったであろう」とされることが多いですが、パスカルはfaceという単語を使っており、「大地の表面」「地表」と見るほうが当てはまるようです。

でもそれじゃちょっと現代人にはわかりにくいので……。シーザーがクレオパトラに魅了されなかったら世界の歴史は変わっていたかも、と考えたほうが理解しやすいのかもしれません。

では、この名言の意味とは?もちろん、単に「クレオパトラがどれほど美人だったか」という話ではなく、あくまでも例えの話。「ほんの些細なことでも、世界が変わる可能性がある」という意味が込められています。

早熟にして早逝~天才・ブレーズ・パスカルの珠玉の名言

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パスカルが生きた17世紀は、科学が進歩し、新しい価値観が生まれて、キリストの教えや信仰というものに対する考え方に少しずつ変化が起きていた時代だったと思われます。そんな中、神学と哲学、数学、物理学など、ともすると真逆とも取れる学問を、独特の視点で解き続けたパスカルは、唯一無二の天才であったと言うべきでしょう。残された言葉ひとつひとつに重みがあります。『パンセ』には深く考えさせられる言葉がたくさん。悩みが多くてお疲れ気味の方におススメです。

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