平成日本の歴史

使えない欲がない「ゆとり世代」の謎。本当は優秀?なぜこうなったの?その理由は

「これだから、ゆとりは……」昭和のおっさんおばさんたちが言いがちな、この言葉。そのたびに、ゆとり世代は複雑な気持ちになります。筆者は平成元年生まれのゆとり世代です。ゆとり教育が開始されたのは1980年(狭義だと2003年)から。しかしこの方針が決まったのは私たちが生まれる前です。調べれば調べるほど確信していきました。「ゆとってる理由はゆとり教育のせいでも、世代のせいでもないのでは?」昭和世代の理想の姿、ゆとり世代の正体に迫りましょう。

ゆとり教育は反面教師?夢と希望がつまった教育理念

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1980年代にはじまった、ゆとり教育。その理念には、詰め込み教育で地獄を見た昭和の人びとの「夢」が詰まっていました。ふたを開けたら出来上がったのは「使えない人材」!?失礼な。実際にはゆとり世代はきちんと役に立てる人びとですし、全てがゆとりの責任だなんて大間違いです。問題は、なぜこうなったか。ゆとり世代の正体について、平成生まれのゆとり世代な筆者が迫ります。

ゆとり教育を生んだ「詰め込み教育」って?

「ゆとり」の元凶、詰め込み教育についてまずはおさらいしましょう。スプートニク・ショック、すなわちソ連による人類初の人工衛星打ち上げ成功により、世界中に衝撃が走ったのが1957年。国を強化するのは教育の力だ!共産圏のソ連と国境を接している日本は教育方針を「詰め込み教育」にシフトします。

この詰め込み教育で重視されたのは「系統・構造」です。学問というものは細かく系統立てられているものですから、これはこれで合理的なやり方でした。しかし、知識のインプットについていけない「落ちこぼれ」の存在を多く生んでしまったほか、「なぜこうなるのか」という疑問や創造力が欠如する結果を招きました。これを反面教師として、1970年代に日本教職員組合(日教組)が脱・詰め込み教育の「ゆとり教育」を提唱します。1980年に、この教育方針は受け入れられ、2003年に本格的に導入されました。

ゆとり教育の一番の目的は「思考力を鍛える」こと。そのため総合的な学習の時間(総合学習)の設置や、実験や体験学習の時間を増加させることなど、カリキュラムの変更が行われました。詰め込み教育が大局的な戦略を見据えていたのに対して、ゆとり教育は「自分たちが辛かったから、子供にはそんな思いはさせたくない!」というヌルい理念が出発点だったという点を見ると、あまりの甘さに頭を抱えざるをえません。そもそも冷静に考えれば、思考力は基礎的な知識がなければ育めないのですが……。

ガチゆとり世代の筆者が、ゆとり教育の現場を語ります!

平成元年生まれの筆者はアラサーのバリバリゆとり世代。その立場で「ゆとり教育の現場」を思い起こしてみましょう。まず印象的だったのが、学校週5日制度です。つまり週休2日制。土曜日の午前中のみ登校すなわち「半ドン」がなくなり、週末の2日間は学校から自由になります。いじめられっ子だった筆者はこの制度に大歓喜!

しかし教わる時間が少なくなれば、もちろん勉強ができないわけです。なぜそこに気づかなかったのかと思ってしまうのですが……。思考力を鍛えるという目的のもと、道徳の時間には「心のノート」なるものが配られました。2003年、本格的にゆとり教育が開始されてからは、総合的な学習の時間も設置されます。が、この総合学習時間の使い方はどの先生も迷走。

総合学習や道徳の時間は、大半が自習時間に当てられるという、何がなんだかわからない状況が生まれました。その他にも、相対評価から絶対評価へと基準が変更に。一方で「結果より過程を褒める教育」が流行しました。褒められて伸びる!そうして育ったのがゆとり世代です。

ゆとり教育の結果

ゆとり世代の人生を変えたものは一体何だったのでしょう?学習時間の削減、経験や体験重視の授業、結果ではなく過程を褒める教育……。これらは関係ないのかもしれません。筆者の考えでは「いじめ」です。明らかに傷害や自殺教唆などの犯罪が横行する中を強制的に登校することになった、子供たち。「学級崩壊」といった言葉が日常的に使われるようになったのも、この世代です。

筆者には、「自分で考えて行動しない」「積極性が少ない」と評価されるゆとり世代の背景の一端には、最低9年間は在籍の義務のある学校における「いじめ」の環境が関係しているのではないか、と思われます。徹底して出る杭は打たれる社会において、目立ったり有能であることは命の危険がありました。ゆとりより前の世代には想像もできない、劣悪な環境がまんえんしていた学校社会。自己肯定感や発信力が低下するのは当然のことでしょう。

しかしこの世代の救済はなんといっても、インターネット。Windows95や98のアップデートとともに子供時代を過ごし、小学校からすでに「パソコン室(コンピュータ室と呼ぶ学校も)」でコンピュータを使った授業も行われるなど、デジタルネイティブを育成する教育が盛んになりました。TwitterやFacebookなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が普及したのは、2010年代。広い世界とつながりを持てるツールが手に入ったことは世界の光景を一変させました。このことが「すぐ辞めるゆとり」の姿につながっているのでは……?次の章で見ていきましょう。

ゆとり世代の特徴は?その原因を考察

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職場で使えない、すぐ辞める、など散々な評判ばかりのゆとり世代。本当にそうなのでしょうか?なぜこうなったのか?その原因を探ると、根本的な世界観の違いが浮き彫りになります。なぜゆとりは「使えない」と言われてしまうのでしょうか。理由は、ゆとり教育の理念が結実したから?ゆとり世代が上の世代の人びとから大不評な理由に迫りましょう。

すぐ仕事を辞めるのは、ゆとりの責任だけじゃない!

「仕事よりもプライベートを重視する」という評判のゆとり世代。しかし平成生まれの我々からしてみたら、会社の行事に束縛される理由がわかりません。それだけにふさわしい対価が発生しないのです。ゆとり世代以前の社会は、非常に景気がよく国全体が右肩上がり。終身雇用、お給料は年功序列で昇給しました。令和の現代では予想もできないほどのパワハラ・モラハラ・セクハラの嵐だったのが、昭和。その「我慢料」としてお給料を受け取っていた時代は終わったのです。

自分で考え行動する力を持たせるゆとり教育は、この点で成功をおさめたのかもしれません。ゆとり教育の理念である「結果ではなく、そこに至るまでの過程に対する好奇心と創造力」を求める力は、「なぜこの飲み会があるのか」「どうしてこんな慣習があるのか」など、組織社会の1つ1つに疑問を持ちツッコミを入れる力でもあります。

また、パソコンやスマートフォンを駆使してインターネットを使いこなす「情報強者」のゆとり世代は、現在の職場だけにしがみつく無意味さをよく知っているのです、ITやAIの発展によって職業が淘汰されると予言される現代日本では、そもそも会社が個人の人生の面倒を見ることがなくなり、雇用業態も変わりました。会社や上司の言いなりにならない、その姿を上の世代は歯がゆく感じるのかもしれません。

情熱や欲がない?ただ身の丈を知っているだけ

ところでゆとり世代の特徴の1つに「出世欲をはじめとした、向上心の欲がない」というものがあるようです。それもそのはず。就職氷河期、派遣という不安定な雇用形態、ワーキングプアやマイルド貧困などの単語が飛び交う中で社会人になったゆとり世代は、身の丈を知っています。

しかしどんなに不景気でも世の中というものはよくできているもの。ダイソーやセリアなどの100円ショップ「100均」、UNIQLOやしまむらなどのファストファッションが発達。ブランド物や高級品よりも、プチプラファッション。物で豊かになるより、断捨離してミニマリスト。ちなみに、アニメや漫画などサブカルチャー、文化面が爛熟期を迎えた恩恵を受けたのも、このゆとり世代です。

「指示待ち」と言われてもいますが、団塊の世代やバブル世代のような精神論や根性論で博打を打って、クビになるリスクは負いたくないもの。外面や建前より、内面重視。名より実を取る。ときに「いい子すぎて覇気がない」とも言われるゆとり世代ですが、反抗したりぶつかったりすることのつまらなさをよく知っています。

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