2-1.鬼の宴会に出くわしてしまうお爺さん
今は昔、ある所に右頬に大きな瘤(こぶ)を持っている翁(おじいさん)がいました。普段からあまり人に会わず、薪などをを取って暮らしていましたが、ある日のこと、山へ入ると道に迷ってしまいました。
あたりはすっかり日も暮れ、人の姿などまるでありません。今から家へ帰ろうとしても、とても無理でしょう。
仕方なく木の洞穴で夜明けを待つことにしたものの、何やら外が騒がしい。そっと様子をうかがってみると、この世のものとは思えないほど恐ろしい鬼たちが、輪になって宴会をしているではありませんか。
2-2.鬼に瘤を取られる
鬼たちはそれぞれ楽し気な舞を踊り、酔いも手伝ってか、その姿は人間そのもの。最初は怖がっていた翁も「外に出て一緒に踊りたい」気持ちを抑えきれず、思わず飛び出してしまいました。
その姿を見た鬼たちはびっくりしたものの、翁の見事な舞に魅了され、やんやの大喝采。楽しい宴は続き、翁のことを気に入った鬼たちが口々に言います。
「翁よ、このような楽しい宴は初めてじゃ。この次もきっと参れよ。」
すると翁も「お目に適いますれば、この次はもっと良い舞を披露いたしましょう。」と応えました。
しかし、いぶかしげにしていた別の鬼が「そうは言うても、次は来ないとも限らぬ。何か大事なものを置いていけ。」と凄んできました。
「ではその頬にある瘤が良いだろう。瘤は福のものだから、きっと翁も惜しいはず。」すると鬼が寄ってきて瘤をねじ切りましたが、不思議と痛くもかゆくもありません。
やがて朝になり、翁が家に帰ってくると妻はびっくり仰天。大きな瘤がきれいさっぱり無くなっているではありませんか。「なんと不思議なこともあるものだ。」と言い合ったそうです。
3-3.欲を出してしまった隣のお爺さんの顛末
ところで隣の家に、これまた左の頬に大きな瘤がある翁が住んでいましたが、瘤の無くなった翁を見るや、「どんなふうにして瘤を無くされたのか?どんな医者に頼んだのか?」と聞いてきました。
事の顛末を隣の翁に話すと、さっそく瘤のある翁は言われたまま、例の木の洞穴に潜みました。そして例によって鬼たちがやって来ます。
鬼たちは「どうだ?翁は来ているか?」と聞くと、瘤の翁は「はい!ここに!」と飛び出て舞を踊り始めました。しかし彼は踊りが不器用だったため、鬼たちの不興を買うことに。
「こんな下手な踊りは見たくない。瘤を返すゆえ、帰るがいい」とばかりに、預っていた瘤を放り投げました。するとうまい具合に翁の右頬にくっつき、両頬に瘤が二つある顔になってしまったのです。
何事もうらやましいからといって、欲を出すべきではないということでした。
4.藤大納言忠家、物いふ女放屁の事
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今も昔もオナラを人前でするのは恥ずかしいもの。それが一夜を共にした相手ならなおのことですね。平安時代の貴族はとかく体面やプライドを気にする風潮があり、ちょっとしたことで泣いてみたり、悲しんでみたりするくらい感情の起伏が激しかったようです。
4-1.ムードが台無しのアノ音
今は昔、大納言藤原忠家という人がまだ殿上人であった頃、とある派手で美しい女房と言い交して寝所に入っていました。
夜が更けていくうちに、月は昼間より明るくなり、その明るさに堪えかねた女房は御簾をもたげてようとしました。するとその仕草が可愛らしく思えたのか、大納言は女房の肩を抱いて引き寄せようとしました。
女房はびっくりしたのか、いきなり髪を振り乱して「あっ!ちょっ!恥ずかしいです!」と身をよじります。するとひと際甲高くアノ音が聞こえたのです。
「プウゥゥゥゥゥゥ~!」
いったい何の音なのかは、皆さんはご存じでしょうね。
4-2.ただのオナラなのに…
その瞬間、女房はへなへなとその場に臥してしまい、大納言も「これは情けないことになったものだ。このまま生き長らえて何になろうか。いっそのこと出家して世を捨てようか。」と歩き出してしまいました。
「よし!絶対に出家するぞ!」と決意したものの、ほんの数メートル歩いたところで立ち止まります。
「ちょっと待てよ?オナラをしたのは女房であって私ではない。しかも女房が別に間違いをしたからといって、私が出家することもないではないか。」
そう考えた大納言はアホ臭くなり、そのままタタタタッ!と走り出てしまわれました。後に残された女房がどうなったか?誰も知らなかったそうです。
※オナラをした程度で出家するなんて、かなり大げさに思われますが、当時としてはやはり恥ずかしいことだったのでしょうね。
5.雀報恩の事
これも昔話の定番「舌切り雀」の原作となった話です。雀のお宿やつづら箱などは登場しませんが、物語の構成が非常に似通っていることに気付くでしょう。このお話も「強欲を出せばロクなことはない」という教訓めいた内容となっていますね。
5-1.ケガした雀を助けたおばあさん
今は昔、あるおばあさんが縁側で虫を取っていたところ、庭で跳ね回っていた雀(すずめ)に子供たちが石を投げ、運悪く当たってしまいました。
雀は腰が折れ、飛び立てない様子。かわいそうに思ったおばあさんは「このままではカラスに食べられてしまうだろう。」と思い、雀を手に取り上げて小さな桶に入れ、食べ物を与えて養生させました。
周りの子供たちは「あれ、婆さまが年を取って雀を飼いなさる。」と冷やかしても素知らぬ顔。やがて養生の甲斐があってか飛び立てるまでに回復しました。
「また来ることもあるかねえ。」と放してあげたおばあさん。家の者はそれを見て笑うばかりでした。