7.児のそら寝
663highland – 投稿者自身による作品, CC 表示 2.5, リンクによる
最後はちょっと微笑ましい話です。比叡山延暦寺に住んでいるのはお坊さんだけではありません。お寺の雑用や身の回りの世話をする児(ちご)という子供も暮らしていました。
7-1.延暦寺の夜のこと
今は昔、比叡山延暦寺にひとりの児が暮らしていました。もう日もすっかり暮れ、児がそろそろ眠ろうかとした時に、僧たちが口々にこう言っています。
「少し手持ち無沙汰だから、ぼた餅でも作ろうか。」
その言葉を聞いて児は期待します。しかし、ぼた餅が出来上がるのを寝ずに待つのも良くないですし、そのまま寝入ってしまっては、ぼた餅にありつくことは出来ません。
「じゃあ邪魔にならないように、部屋の片隅に寝転んで寝たふりをしようか。」そう思ったのです。
7-2.変に気を使ってしまい…
するとしばらく経った頃、ぼた餅が出来上がったのか僧たちが口々に騒いでいます。児は「きっと自分のことを起こしてくれるだろう」と考えていました。
児が待ち続けていたところ、僧の一人がやって来て「目をお覚ましください。ぼた餅ができましたよ。」と囁いてきました。
児はうれしいと思う反面、「声を掛けられただけですぐに返事をするのも、なんだか卑しく思われないだろうか。」と考え、返事をしませんでした。
7-3.最後は皆で笑い合う
もう一度呼ばれたら返事をしようと思っていると、別の僧が「もう寝入ってなさるから、起こして差し上げるな。」と言うではありませんか。
「これは本当に困ったことになった」と思った児でしたが、お構いなしにぼた餅をムシャムシャ食べる音が聞こえるばかり。
とうとう我慢できなくなった児は思わず「はい!」と返事をしたのでした。「え?起きてたの?」と僧たちは爆笑します。すると児は照れくさそうに笑うばかりでした。
現代にも通ずる、ためになる物語が多い!
宇治拾遺物語に収録されている物語の数々は、仏教観や伝承、民間信仰に基づくものが多いいっぽうで、一種の教訓めいたオチになっているものも少なくありません。「人は欲にまみれてはならない。」「人とはこうあるべきだ。」という教えは、確かに現代にも通ずるものですよね。正しく生きていく上で、決して忘れてはならないことだといえるでしょう。