【文学】フランツ・カフカ「変身」を解説!不朽の名作の意味深な暗喩って?
ある日いきなり「害虫」になった家族
ふいに朝、起きられなくなる。仕事にどうしても行けなくなり、部屋から出たくなくなる。会社は辞めさせられ、無駄飯食いとなり、家族からは腫れ物に触るように扱われます。やがて家族は収入源を失ったことにより困窮してしまいました。それでも部屋から出られることなく、やがて家族の軽蔑を買うようになり、しまいにはまさに「害虫」とさえ心のなかで、思われる。
……なにかに似ていませんか?そう、まるでグレゴールの姿は「引きこもり」の姿そのものなのです!変身したとたんに「害虫」グレゴールが、家族をはじめ他の人間と意思疎通をとれなくなることも、印象的。グレゴールは他の人間が言うことがわかるのに、その彼らはグレゴールの言葉を理解できないのです。
他者との言葉と心の通じ合いがかなわなくなり、どんどんおたがい同士がズレていく。一度、社会との関わりを断たれた人間はまさに「何を言っているか・考えているかわからない」存在として扱われるのかもしれません。そのようにこの作品を読み解くと、あまりにも悲惨な物語に読むことができるのです。おそろしいですね。
一家の働き手が「虫」になった原因は?
なぜグレゴールが「毒虫」に変身したのか?その原因究明をしてみようとすると、作中にさまざまな鍵を見つけることができます。過酷な仕事、厳しい同僚や上司の目線、セールスマンとして出張また出張、忙しすぎて友人はできず、家族は持ってくる給料袋に対してあまりありがたそうな反応をいつしか見せなくなり……。
グレゴールは、ひいてはこの「引きこもり」は、疲れ果てた先の燃え尽き症候群かもしれません。そう考えると、ただ単に「働けなくなっただけ」の家族に対しての待遇はあまりにも残酷です。しかしザムザ一家の疲弊の姿を見ると、胸を締めつけられます。だからこそ、どんなにコメディ要素があろうと、涙を禁じえないのです。
稼ぎ手が外界と接触できなくなった結果、経済的に困窮することになった家族の虚しさと、怒りと、悲しみはどこへ向かうのか。グレゴール・ザムザが、そして家族が、おたがいの束縛から逃れるためには?残酷とも言える、しかしなぜか爽快な結末が待ち受けています。
どう読み解く?読むたびに印象が変身する、普及の名作
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この記事で示した解釈は、あくまでも数ある読み解き方のうちの一部。作者カフカが意図したように、コメディとしてもたしかに読めますし、悲惨な家族の物語とも……人間の想像力や考え方を試す小説として、『変身』は非常に魅力的です。しかし、なんだかんだ理屈をこねるよりは、まず手にとって読んでみてください!夢中になる、カフカの圧巻の筆力。深く味わいがあり、何度読んでも発見がある。古典の名に恥じない名作です。