日本の歴史昭和

「ダメ人間」イメージ払拭!あなたの知らない太宰治のマイナー名作6選をご紹介

「トカトントン」――この音の、正体は?

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続いてこれも読書感想文にうってつけの名作。「トカトントン」――ふしぎなタイトルですが、この擬音が本作のキーワード。内容も実に不可思議。途方に暮れた謎にみちた手紙のラストにズバッと切り込まれる一言も見ものです。はたしてその正体は。

【あらすじ】「拝啓、教えていただきたいのです。」作家へのファンレターはこんな文面ではじまります。作家と同郷だというその若い田舎の郵便局員は、ミリタリズム、小説、仕事、スポーツ、恋……なにをしようとしても不思議な音「トカトントン」につきまとわれるというのです。その音を聞いたが最後、彼は……。

トカトントンの音の正体は何なのか?そしてラストの作家の「答え」の意味って、一体?読み解き方がたくさんある本作は読むたびに味わいを増してしていきます。初出は1947年、死のわずか1年前の作品。戦後日本のある種のうつろさをこの奇妙な音にこめた作品です。

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トカトントン

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「桜桃」――子供より親が。いたたまれない太宰のもだえ

太宰治晩年の名短編「桜桃」です。文豪の命日には様々な名前がついています。たとえば芥川龍之介は「河童忌」(晩年のディストピア・ファンタジー作品「河童」にちなむ)。太宰治は「桜桃忌」です。本作はダウナー(うつ)太宰に分類される短編ですがどこか悲しい明るさがあり、桜桃忌が近づくと多くの太宰ファンが本作を再読します。

【あらすじ】「子供より親が大事、と思いたい。」そんな冒頭ではじまる、これは夫婦喧嘩のおはなし。父・太宰、母と小さな3人の子供の5人家族。太宰は家の中で常に緊張しお世辞や冗談などを飛ばします。太宰の妻は食卓でひょんなことからこんなことを言うのです「涙の谷」……いたたまれない太宰の心の中とは。

太宰治の一家をみずからモデルにした本作。アル中ヤク中自殺未遂ばっかりの太宰治の家庭ってのは、さぞかしただれてるんだろうなぁと思ってしまいますが、実は。こんなふうに遠慮と緊張にあふれた家庭の光景は、意外とどこにでもあるのかもしれません。

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未完の遺作「グッド・バイ」――最期に太宰が遺したのは、驚くべき爆笑コメディ

あんな悲劇的な結末をとげた太宰だ、遺作はさぞかしダウナーで暗くて鬱なんだろう……筆者もそう思っていました。とんでもない。最後にご紹介するのは絶筆「グッド・バイ」。意外と読まれていないこの遺作ですが、絶望と笑いがテンポよい爆笑コメディです。

【あらすじ】雑誌編集長・田島周二。戦後の闇商売でガッポリ儲けた彼ですが、10人近く囲っている愛人を去らせて田舎に疎開させている奥さんを呼び戻したいと考えます。しかしただフェードアウトしたのでは、女の人がかわいそう!そんなとき入れ知恵されたこんな案「すごい美人をどこからか見つけてきて女房役を演じてもらい、愛人たちのもとを1人1人訪れ、愛人に自分を諦めてもらう」すごい美人の女房役として白羽の矢が立ったのは、これまた闇商売で担ぎ屋をしているキヌ子という、大食い毒舌のとんでもない女。田島は愛人全員とのお別れのため、金と気力を消耗させつつ行進をはじめる。

とにかくキャラ立ちが絶妙。キヌ子の描かれ方には、女に愛されてきた太宰自身の経験からか緻密な女性観察が活かされており、謎のリアリティ。終始コテンパン状態の田島はどうなっちゃうの?と読み進めて……えーーっこんないいトコロで中断したまま死なないで太宰!と毎回頭を抱えるくらい「いいところ」で切って太宰は玉川上水に散ります。死の寸前にいながらもこんなユーモアサービス満点の作品を書けるとは、やはり太宰治、ただものではありませんでした。

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千変万化、ふしぎな魅力と顔を持つ作家・太宰治

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太宰治作品の中から猛プッシュしたいマイナー名作を6作品紹介しました。今回ピックアップしたものには短編が多く、普段あまり本を読まない方でも気軽に読むことができますよ。太宰治は多彩な作風や技術を本来持っていた作家。「人間失格」だけが太宰治じゃないんです!ちょっと読んで、他と差をつけられる名作6編。ぜひ手をのばしてみてください。

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