日本の歴史

「わび」「さび」とは何?大切にしていきたい日本独自の美意識

園内にある茶室の佇まいは秀逸:兼六園(石川県)

兼六園は石川県金沢市内にある、日本を代表する庭園のひとつです。金沢城の外郭に造られた池泉回遊式庭園で、岡山市の後楽園、水戸市の偕楽園と共に日本三名園とも呼ばれています。

広い園内には大きな池と水の流れ、松などの植栽が配置されており、派手さはありませんが趣ある雰囲気。有名な観光スポットであるがゆえに観光客の数も多いですが、風情ある風景を前に、心なしか静かに鑑賞する方が多いように思われます。皆さんそれぞれ各々、心の中で「わび」「さび」を感じ取っているのかもしれません。

園内の数あるスポットの中で特におすすめなのが、園内最古の建物「夕顔亭」です。中を見学することはできませんが、池のほとりにひっそりと建つ佇まいは「わび・さび」そのもの。風情が感じられます。

華やかな都を離れて究極のわびさび:銀閣寺(京都府)

京都でも指折りの人気スポット、銀閣寺。正式名称は「慈照寺(じしょうじ)」ですが、金閣寺に対してこのような呼び方で多くの人に親しまれています。

室町幕府八代将軍足利義政によって建てられた、東山文化の象徴とも称される銀閣寺は、究極の「わび・さび」を追及した場所。同じ京都に金閣寺のような華やかな北山文化の存在があるため、銀閣寺の侘しさがより一層引き立ちます。

素朴で簡素。自然を活かした庭は何もないように見えて、実は四季の美しさを極限まで堪能できるよう計算しつくされているといいます。

お金をつぎ込んで高価な資材を使えば、誰もが息をのむような豪華絢爛華やかな建物を建てることはできるでしょう。将軍としての力を誇示することにもなります。しかし義政は、中央の政権争いに疲れ、お金をかけてわざわざひなびたものを築かせ、この場所に心の安らぎを求めたのです。

静寂と枯山水・これぞわびさびの世界:龍安寺(京都府)

京都には「わび・さび」を感じることができるスポットがあまたありますが、ここを外すわけにはいきません。

龍安寺(りょうあんじ)は「枯山水(かれさんすい・水を引かずに石や砂を使って川や池などの風景を表現する庭園様式)」の頂点ともいえる方丈庭園が有名なお寺です。

一般的には「石庭」と呼ばれることが多い龍安寺の庭園。幅25m、奥行き10m、広さおよそ75坪という空間に、大小さまざまな形の石が15個と、白砂、そして苔。他には何もありません。庭と呼ぶにはあまりに簡素で閑寂とした中に、奥深さや趣き、美しさを感じる。一見みすぼらしいように見えて、落ち葉ひとつ落ちていない研ぎ澄まされた白砂の美しさに、時を忘れて心奪われること間違いなしです。

江戸文学の貴重な資料から学ぶ:芭蕉記念館(東京都)

「わび・さび」を感じてみたいけれど、有名な観光スポットはちょっと敷居が高いなぁ……。ということであれば、資料館や美術館に足を運んでみるのもひとつの手です。

五・七・五という少ない文字数で情感や心の内面を表現するという、究極の「わび・さび」が求められる俳句。その世界観を確立した松尾芭蕉の貴重な資料を見ることができる場所が東京の下町、墨田川のほとりにあります。芭蕉記念館です。

建物は近代的ですが、館内では、松尾芭蕉本人の足跡はもちろんのこと、俳句に関する様々な資料が展示されていて見ごたえは十分。敷地内の庭園も心落ち着く空間となっています。

日本美術専門の美術館:根津美術館(東京都)

流行の最先端・原宿駅から徒歩数分の距離にある根津美術館は、日本の古美術品を中心に貴重な芸術作品を鑑賞できるスポット。実業家・根津嘉一郎氏の貴重なコレクションを見ることができます。

尾形光琳の「燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)」など国宝が展示されていることでも知られていますが、漆器や陶器などの展示コーナーも見ごたえ抜群。室町時代の茶碗(茶器)も見ることができます。当時の人たちはこれを使って「わび・さび」を感じていたのかな……。そんなことを想像しながら見学するのもまた一興です。

東京のど真ん中とは思えない、広くて静かで落ち着いた雰囲気の館内は、装飾を控えたシンプルなデザイン。ピリッとした心地よい緊張感が漂います。建物のデザインは新国立競技場の設計で知られる隈研吾氏です。

飾りは少ないけれど飛び切り贅沢な空間の中で見る、日本美意識の神髄。これが現代の「わび・さび」なのかもしれません。

静寂も質素も簡素も美しい~日本独特の美意識「わびさび」

image by PIXTA / 39781775

外国の人に「わびさびとは何ですか?」と聞かれたら、どう表現すればよいか……。「簡素で不完全な暮らしの中に美しさを見出すこと」と説明して、果たして理解してもらえるかどうかわかりません。国によってものの価値観や精神は異なるので、説明は難しいです。しかしこうした日本人独特の美意識は近年欧米でも注目されているそうで、「wabi-sabi」という英単語もあるとのこと。人の心の中に宿る美意識とは、はっきりと言葉で説明できなくてもよいのかもしれません。

1 2
Share: