小説・童話あらすじ

「クトゥルフ神話」とは?ラヴクラフトからTRPGまで世界観をわかりやすく解説

ニャル様?千変万化の絶世の美形?〈ナイアルラトホテップ〉

通称「ニャル様」。初出はラヴクラフトの短編『ナイアルラトホテップ』ですが日本で有名なのは、クトゥルフ神話が爆発的に広まるきっかけとなったライトノベル「這いよれ!ニャル子さん」(逢空万太 作)。ニャル様こちらのラノベでは萌キャラに変身されています。名状しがたいですね。

正体は〈外なる神〉のメッセンジャー。主に外なる神・アザトースに使役されると言われます。「貌がない故に千の貌を持つ」と言われ、千変万化、変身する際にはよく絶世の美形を選ぶとか。クトゥルフ神話のトリックスターで、狂気の混沌のため宇宙規模で暗躍します。

ちなみにアザトースもよく聞くネタ。「ありがとうございます」の若者言葉「あざっす」をアザトースにひっかけて「アザトース!」と言ったりします。

〈SAN値〉宇宙的恐怖にさらされ、試される「正気度」

クトゥルフ神話のテーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)でよく出るワード〈SAN値(さんち)〉。キャラクターの持つ正気の度合いを数値化したものです。HP(体力値)などと同じステータスの1つ。TRPGについては後述しますね。

英語の「Sanity Point」から頭3文字をとって「SAN値」と呼ばれるようになりました。ゲーム中で正気度ロール(SANチェック)が入ると、ダイス(さいころ)の目によってキャラクターのSAN値が変動します。ダイスロールに失敗するとSAN値が減っていくのです。

狂気には2種類。「一時的狂気」では一定時間錯乱する程度ですが、「不定の狂気」に陥ると精神病院での治療がないかぎり回復がありえません。「SAN0になる」と完璧な狂人。人物のSAN値が邪神の影響でガリガリ減っていくのを楽しむのが、小説・TRPG問わずクトゥルフの醍醐味です。

クトゥルフ神話誕生ストーリー ラヴクラフトから現在まで

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最後に、現在まで続くクトゥルフ神話誕生ストーリーをご紹介。クトゥルフ神話はどこから誕生したのか?ラヴクラフトが廃屋の屋根裏部屋で見た夢が小説となり、その小説を愛したファンや弟子たちが体系化し、ゲーム化され、アニメにまで。クトゥルフ神話の世界はとどまるところを知りません。

クトゥルフ神話始祖〈ラヴクラフト〉はじまりは夢の深淵から

すべてのはじまりは、アメリカの詩人であり恐怖小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(1890-1939)。生前は三流の低俗雑誌(パルプ・マガジン)で一部のファンを得ただけで、経済的にも困窮していました。彼が生涯かけて執筆した宇宙的恐怖をあつかった恐怖小説が、のちの〈クトゥルフ神話〉の原型となる小説群です。

妻の収入で暮らし、(幼い頃から夢だった)廃屋に住み、貧しいなかで執筆を行ったラヴクラフト。彼は悪夢に近い明晰夢から小説を生むこともありました。たとえば『ナイアルラトホテップ』はラヴクラフトが実際に見た明晰夢を元に書かれた短編。小説と夢の内容はほぼ同じとのこと、こんな恐怖の深淵を夢で見つめていたなんて……彼の小説にはまさしく冒涜的な恐怖があふれています。

ラヴクラフトの作品が評価されたのは彼の死後。現在も彼の作品は、文章がめちゃくちゃ、ただの低俗な大衆作家、エドガー・アラン・ポー気取りの三流詩人、などとこき下ろされます。しかしサブカルチャーに与えた影響は多大なもの。アメリカ文学で重要なポジションを占める作家です。

弟子による体系化、そしてファンたち、世界へ

クトゥルフ神話が「神話」として体系化されたのは、ラヴクラフトの死後。ラヴクラフトを師と慕ったオーガスト・ダーレスが中心となり、旧支配者、外なる神、旧神、四大属性などの設定を整えていきました。

ダーレスはラヴクラフトの未発表原稿を含んだ作品集「アーカムハウス」の出版のほか、他の作家にも〈クトゥルフ神話〉を書くように働きかけます。その後はクトゥルフ神話ファンたちが過去の〈クトゥルフ〉のデータを尊びつつ、それぞれの世界観のもと、あらたなクトゥルフ作品を紡いでいったのです。

日本では1970年代に雑誌でクトゥルフ神話特集が組まれました。クトゥルフ神話を継承して、クトゥルフ作品を書く日本の作家も登場します。21世紀に入り、クトゥルフ神話はさらに進化。先述のライトノベル「這いよれ!ニャル子さん」がヒットしアニメ化。ニコニコ動画などではTRPGリプレイ動画が流行し、ネットの力も手伝って〈クトゥルフ〉は爆発的に広まっていきました。

会話力を駆使してシナリオクリア!〈TRPG〉としてのクトゥルフ

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最後にクトゥルフ神話の代名詞「TRPG」について解説しましょう。TRPGとは「テーブル・トーク・ロールプレイングゲーム」の略。ゲーム機などを用いず、紙と鉛筆、ダイス(さいころ)、所定のルールブックを使います。生の人間がプレイヤーキャラクターになりきり、対話のトーク力とダイス(さいころ)運を味方につけてシナリオクリアを目指す、ちょっと高度な会話ゲームです。

クトゥルフ神話をベースとしたTRPG「クトゥルフの呼び声」がアメリカで発売されたのは1981年。日本にも1986年に上陸しています。現在はニコニコ動画などで「クトゥルフ神話TRPG リプレイ動画」が次々アップロード。検索すると、実際のゲーム模様を編集したさまざまな動画を見ることができますよ。クトゥルフ神話が21世紀に大流行した背景にはTRPGとニコニコ動画の存在が。ここから「SAN値」「いあ!」「冒涜的な……名状しがたい……」などのネタも広まっていったのです。

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