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岡本綺堂をファンが徹底解説!怪談小説・時代小説のおすすめ作品6選も紹介

明治時代から昭和にかけて、時代小説や怪談小説を語る上で欠かせない作家がいます。岡本綺堂(おかもと きどう)です。彼は新歌舞伎の脚本家としてヒット。その後エンタテインメント作家として怪談、時代小説、捕物小説や伝奇小説の名作を数多く残しました。今こそ読みたい!岡本綺堂が好きで好きでたまらない大ファンの筆者が、彼の魅力を全力で解説します!

岡本綺堂ってどんな人?

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作家・岡本綺堂ってどんな人物なのでしょう?明治から昭和にかけて活躍した国民的作家ですが、今もファンが根強く存在します。ベストセラー作家の宮部みゆきさんも大ファンとか。作品のほとんどを青空文庫やKindleにて無料で読むことができます。日本人が岡本綺堂を読まないなんてもったいない!まずは彼のプロフィールを紹介しましょう。

江戸っ子侍の家に生まれて

東京高輪、泉岳寺近くに岡本綺堂の生家はあります。徳川幕府の元御家人だった岡本家に、1872(明治5)年、岡本綺堂は生まれました。本名は岡本敬二(おかもと けいじ)。父親はイギリス公使館に書記として勤務。当時の旧士族をはじめとした知識階級の子供らしく、敬二少年は漢文に親しんだ子供時代を送りました。

3歳から父親の手ほどきで漢文素読の英才教育を受けます。イギリス公使館で働く父の伝手で、留学生から英語を学ぶなど、教養豊かに育ちました。その後東京尋常中学校を卒業。進学はせずに、学生時代から夢だった劇作家を目指し、東京日日新聞に入社しました。

その後、新聞社を渡り歩き24年間新聞記者として活躍します。ちなみに奥さんは元・吉原芸妓。遊郭で働いていた元・宇和島藩士の小島栄を身請けして妻にしました。結婚は日露戦争後のことですが、なんとも江戸情緒を感じさせるご縁です。

戯曲から時代小説、『半七捕物帳』へ

日露戦争では従軍記者として満州に滞在。記者生活が長かった岡本綺堂ですが、ついにストーリーテラーとして新歌舞伎の劇作家として活躍しはじめるのです。新歌舞伎とは、座付き役者に当て書きした脚本はなく、独立した劇作家が書いた脚本のこと。1918年、このあと紹介する『修禅寺物語』が大ヒット!「綺堂もの」という言葉が生まれるほどの作家となりました。

岡本綺堂と言われて多くの人が思い浮かべるのは、大江戸シャーロック・ホームズ、捕物小説の傑作『半七捕物帳』ではないでしょうか。1979年にはテレビドラマ化もされています。『修禅寺物語』の1年前、岡本綺堂は『半七捕物帳』の第1話『お文の魂』を上梓。スッと入ってくる、情緒あふれる文章。なつかしい江戸の風景。人びとの心をわしづかみにしました。

1918年に欧米を訪問。1923年9月1日の関東大震災で被災した後も、精力的に執筆活動を続けました。生涯を通してエンターテイナーとして、物語を世に送り出した岡本綺堂。1939年に63歳でなくなりました。現在、作品は青空文庫やKindleで無料で気軽に読むことができます。一度読んだら魅了されるスゴイ作家なんですよ。

岡本綺堂のオススメ怪談小説3選

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怪談作家としても岡本綺堂は有名です。西洋の恐怖小説「ホラー」や「サスペンス」ではなく、じわじわとくる怖さが魅力の日本の「怪談」。いざ岡本綺堂を読むといっても、どこから手をつければいいんだろう?そんなあなたに、岡本綺堂を読みまくった綺堂ファンの筆者が、ぜひ読んでほしい岡本綺堂の代表作をピックアップしました。まずは怪談小説を3作品、紹介しましょう。

#1 「青蛙堂鬼談」

岡本綺堂の真骨頂である怪談を集めた、『青蛙堂鬼談』。ある春の雪がちらつく日、青蛙(せいあ)という号を持つ男性が仲間を集めます。そして夏の百物語よろしく怪談話をはじめるのです。客は1人1人、不思議な話を持ち寄るのですが……。

静かに語られる怪談は、古今東西を舞台にしたゾクッとくるものばかり。時にふしぎ、時に哀れな、日本ならではの怪談が結集した作品です。これぞ岡本綺堂の真骨頂。岡本綺堂で何を読むか迷っているなら、とりあえず『青蛙堂鬼談』を読んでおきましょう!短い怪談がたくさん詰まっている、事実上の短編集です。ふしぎな味わいと語り口の怪談ばかり。

どこから読んでも良いのですが、個人的にイチオシは『一本足の女』。身寄りのない一本足の物乞いの少女を保護した夫婦にふりかかった悲劇の物語です。妖怪変化やアヤカシといった怪奇現象で片付けない、人間の情念と哀しみが満ちた怪談ばかり。眠れぬ夜に手にとってみては?

#2 『番町皿屋敷』

こちらは劇作家としても活躍した岡本綺堂だからこそ書けた傑作小説。『皿屋敷』の名前は多くの人が聞いたこともあるのではないでしょうか。家宝の皿を割ってしまった侍女がお手打ちにあい、その死体が投げ込まれた井戸に侍女の幽霊が出る。夜な夜な皿を「いちまーい、にまーい」と数えていて――。これをラブ・ロマンスとして小説に仕立て直したのが岡本綺堂の名作『番町皿屋敷』です。

時代は、徳川幕府が太平の世を実現させてからまだ日が浅い、江戸時代前期。戦という役目を失った血の気の多い武士は、徒党を組んで市民に狼藉を働いていました。いかんせん身分が高いので公儀も取締がむずかしい旗本奴たち。旗本奴と、町人階級の町奴が江戸の町では日々火花を散らしていました。物語の主人公は旗本奴の白柄組(しらつかぐみ)でナンバー2として活躍する、旗本奴の青山播磨。そして美しく武勇に優れた彼を愛するのは青山播磨の侍女・お菊です。

主君と侍女。身分違いの恋が叶うかどうか、不安にかられたお菊は家宝の皿をわざと割って恋人の主君の心を試します。皿を割ったことは許すが、恋心を疑ったことは許さないと、播磨はお菊をお手打ちにしてしまうのですが……。岡本綺堂は人の心と江戸に生きる人間の心理を鮮やかに活写します。圧巻の情景描写も見どころ。1人1人のキャラも魅力的です。

#3 『世界名作怪談集』

岡本綺堂が翻訳し日本に紹介した世界の怪談小説を集めたシリーズ、『世界名作怪談集』。コナン・ドイルやアンブローズ・ビアス、ホーソーンなどそうそうたる世界の文豪が書いた、世界中の怪談を岡本綺堂が翻訳して1つのシリーズにまとめました。

お国柄や作家の個性がかいまみえる短編作品がずらり。岡本綺堂はすっきりとした、かつ情景が迫ってくるやわらかな文体が魅力です。彼の文章力で訳された異国の怪談は、どれもしんしんと迫るものがあります。短編小説のため、スキマ時間に読むのにもピッタリです。

筆者のイチオシは『クラリモンド』。フランスの作家テオフィル・ゴーチェ(ゴーティエ)の作品です。生涯妻帯を許されない神父になるのが夢だった青年が恋をしたのは、美しき吸血鬼クラリモンド。青年の葛藤と切実な愛。悲しい恋物語に胸がしめつけられます。かと思えば、リチャード・フランシス・ストックトンの『幽霊の移転』のような爆笑コメディものまであり。岡本綺堂の守備範囲の広さが見て取れます。素敵な作品ばかり!読んで損はありませんよ。

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