小説・童話あらすじ

【文学】谷崎潤一郎「痴人の愛」ドM文豪が放った、踏みたい、踏みにじられたい!の物語

SとかMとか、変態って?『痴人の愛』が愛される背景

ドSとかドMとかいうライトな感じで言われるようになった現代ですが、ここでマゾヒストやサディストに関しての知識を念のために復習しておきましょう。「性の不一致」は神話時代から文学の主題です。それを近代文学で表現したのは、フランスのマルキ・ド・サドが元祖といえるでしょう。他人を虐げることに快感を覚えるという欲望をサドは『悪徳の栄え』『美徳の不幸』などの作品で表現しました。

マゾヒストの語源は『毛皮を着たヴィーナス』が代表作の、オーストリアの作家ザッヘル=マゾッホ。こちらのマゾッホは踏まれたり罵られたりすることに快感を覚えるという、被虐趣味な性癖です。日本において本格的に性の不一致や変態性が表現されはじめたのは、明治末期から大正期にかけて。推理小説のレジェンド・江戸川乱歩をはじめ、純文学では足フェチマゾヒスト・谷崎潤一郎、ねっとり系・川端康成、マッチョマン・三島由紀夫など。

正確な統計はありませんが、ある一定の割合でこのような性的嗜好を持つ人はいるでしょう。意外と多いかもしれません。ふだんは眼をそむけ、意識の底に隠しているこの欲望を、谷崎潤一郎はものの見事に、文学的にも変態的にも表現してくれています。だからこそ、愛され続けているのでしょう。

「西洋人らしい」に焦がれ続けた日本人は……

ブロンド、青い目、白い肌……「きれいだな」って思いますよね。なぜか無条件に西洋人、それも白人を日本人が「きれい」と思い、あこがれてしまうのは明治以前からの伝統でした。現代にいたってはヘアカラーリングやカラーコンタクトで真似っ子までするのです。この「西洋への無条件のあこがれ」が本作品の強い思想的背景となっています。

『痴人の愛』の作中では、ナオミをアメリカの女優・メアリー・ピックフォードになぞらえている、語り手の譲治。ちなみに「アメリカの恋人」と讃えられたメアリー・ピックフォードは、上に挙げたこんな美少女です。ナオミとともに西洋のおとぎ話のごとき生活を望んだ、譲治。でもマジメ男が手にした男は、凄い肉体的魔力を持った女でした。これはどうとらえればよいのでしょう?

ずっとずっと、西洋的な美を愛して、あこがれて自由の境地を夢見てきた日本人。身の丈を超え、自分を見失ったところまでいくと破滅する。この小説はそんな物語とも読めるかもしれません。しかし谷崎潤一郎は関東大震災後に、関西に移り住み、日本的なものを愛するようになります。『痴人の愛』は谷崎が関西に移り住む直前、神戸にいた時期に上梓した作品。日本と、日本の形にゆがめられている西洋の美がまがまがしい傑作小説です。

この愉しさを知らないともったいない!あなたも変態の世界をぜひ

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谷崎潤一郎は被虐趣味者・マゾヒストとして、加虐趣味者・サディストの女を思う存分描きぬきました。『痴人の愛』の語り手にして主人公・譲治は少女ナオミに翻弄され、ナオミともども堕ちていくのですが……「君子」と呼ばれた男が抱いていた欲求は、ナオミによって性の一致を見たとしたら?ある意味、幸せなのかも。この『痴人の愛』、あなたもぜひ読んでみてください。で、この2人のこと、どう思いますか?

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