1848年の革命とワーグナー
1848年2月、フランスで2月革命が起きました。この革命により1830年から続いてきたフランスの7月王政が打倒され、フランス第二共和政が成立します。
翌3月には革命がプロイセン王国のベルリンやオーストリア帝国のウィーンに飛び火しました。1849年、ワーグナーのいたザクセン王国首都のドレスデンでも革命運動が起きます。ワーグナーはこの運動に参加しました。しかし、革命運動は失敗。ワーグナーは指名手配されてしまいます。
ワーグナーは旧知のリストを頼ってワイマールに逃げ込みました。リストはワーグナーのために偽造パスポートを用意してスイスに逃がします。以来、1858年までの9年間、ワーグナーはスイスのチューリヒで亡命生活を送りました。
好評を博した『ローエングリン』
亡命生活中、ワーグナーは『芸術と革命』を著しローマ人による世界征服やキリスト教芸術の全てを否定するなどの説を唱えます。また、ゲルマン神話への考察を深めたのもこの時期でした。
ワーグナーは英雄ジークフリートやニーベルンゲンについて研究を深め、のちの作曲に生かしています。1850年、ワーグナーはオペラ『ローエングリン』を発表しました。
初演を指揮したのはワーグナーのスイス亡命を助けたリストです。ワーグナーは初演を見たいと秘密裏にドイツ帰国を図りますが、リストの助言により断念しました。ワーグナーが『ローエングリン』を全編見ることができたのは1861年のウィーンでの演奏の時です。
『ローエングリン』作曲の発端を得たのは『ヴァルトブルクの歌合戦について』という論文でローエングリンにまつわる叙事詩の説明を読んだ時でした。ちなみに、『ヴァルトブルクの歌合戦』で着想を得た曲として『タンホイザー』も有名ですね。
バイエルン王ルートヴィヒ2世との出会い
1860年代に入るとワーグナーの環境が変化し始めます。1860年、ワーグナーはザクセン以外のドイツ諸国に入ることが許可されました。『ローエングリン』をウィーンで見ることができたのもそのおかげです。
1864年、ワーグナーに心酔していたバイエルン王ルートヴィヒ2世はワーグナーを自分の宮廷に招きました。この時は周囲の反対などがあったため、ワーグナーはバイエルンを去ります。
1865年、ルートヴィヒ2世はワーグナーにオペラを依頼。それに応じて書かれたのが『パルジファル』でした。
『パルジファル』は全3幕のオペラ。中世スペインを舞台とした魔王と勇者パルジファルの物語です。ワーグナーは『パルジファル』を「ゲルマン=キリスト教世界の神聖なる舞台作品」とよびました。ルートヴィヒ2世によるワーグナー支援はその後も続きます。
『ニーベルングの指輪』と「ワルキューレの騎行」
ワーグナーの集大成ともいえる楽曲は『ニーベルングの指輪』ではないでしょうか。『ニーベルングの指輪』は4部作で、すべてを演奏するには15時間を要する長大な作品。作曲期間も長大で1848年から1874年の長きにわたっています。
ワーグナーのパトロンであるルートヴィヒ2世は全ての完成を待ちきれず、出来上がった部分から上演するようワーグナーに要求しました。ワーグナーも支援者の要求には答えざるを得ません。
1869年に「ラインの黄金」、1870年に「ワルキューレ」をミュンヘン宮廷歌劇場で演奏することを了承しました。
日本人の耳に親しんでいる曲の一つに「ワルキューレの騎行」があります。映画『地獄の黙示録』の中で用いられているので、それで知った方もいるのではないでしょうか。
バイロイト音楽祭
南ドイツバイエルン州にある小さな街バイロイト。ここにワーグナーが作り上げたバイロイト祝祭劇場があります。ルートヴィヒ2世の後援を受けたワーグナーが1872年に着工し1876年に完成させた劇場でした。この劇場でワーグナーが上演させたのが『ニーベルングの指輪』です。
現在でも、バイロイト音楽祭で上演されるのはワーグナーのオペラ作品だけ。『さまよえるオランダ人』や『パルジファル』などワーグナー後期の名作が上演されます。ワーグナーの肝いりで開かれた第一回の音楽祭は興行的には失敗。そのため、1882年まで音楽祭は開かれませんでした。
音楽祭が再開されるのは1882年のことです。1951年、ワーグナーが手を入れて大ヒットした『第九』の演奏から戦後のバイロイト音楽祭が再開されました。毎年7月末から8月末までの1か月間にわたり音楽祭が開催されます。
音楽界の風雲児ワーグナーの死
1883年、ワーグナーはヴェネツィアを旅行中に客死します。死因は心臓発作でした。熱烈な支持者だったルートヴィヒ2世はもとより、ワーグナーと敵対していたブラームスも弔意を示したといいます。『レクイエム』で有名なイタリアの作曲家ヴェルディは「我々は偉大な人物を失った」と手紙に記しました。当時の人々は偉大な音楽家の死を深く悼んだのですね。