その他の国の歴史中東

世界遺産「ペトラ遺跡」とナバテア王国の歴史を元予備校講師がわかりやすく解説

ローマ帝国との争いと属州化

ナバテア王国は紀元前1世紀ころに勢力を拡大。アレタス3世の時代にはシリアのダマスカスやエジプトのシナイ半島まで勢力下におさめ、ナバテア王国の最盛期を築きます。

しかし、領土の拡大は西方の大国、ローマとの軋轢を招かずにはいられません。ローマ帝国東方で軍事活動を行っていたローマの将軍、ポンペイウスはユダヤ人の内戦に介入していたナバテア王国に圧力をかけ、ユダヤ問題から手を引かせます。

さらに、ポンペイウスがローマに帰った後も中東に駐留したローマ軍はナバテア王国に圧力を加え続けたため、アレタス3世は銀300タレントを支払ってローマに従属しました。

1世紀になると、ペトラを通らない交易ルートが開拓され、交易の主導権はナバテア王国からパルミラ王国へと移り、ペトラとナバテア王国は衰退します。西暦106年、ナバテア王ラベル2世が死去すると、ペトラなどナバテア王国の主要都市はローマのアラビア・ペトラエア属州に併合されました。

ペトラ遺跡の見どころ3選

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363年に発生した大地震でペトラは大きな被害を受けます。その結果、衰退に歯止めがかからなくなり歴史の表舞台から姿を消していきました。19世紀にスイス人旅行家のヨハン=ルートヴィヒ=ブルクハルトがペトラ遺跡を再発見するまで、ペトラは永い眠りにつきます。ペトラは長期間放置された状態でしたが、降水量が少ないことも幸いして多くの建物が残されました。ペトラの見どころを紹介します。

遺跡に至る道、シークと「宝物殿」

古代都市ペトラに行きつくには、1.2キロもの薄暗い峡谷を抜ける必要があります。この峡谷はシークとよばれました。シークは水の浸食によってつくられたもので、谷底にあたる通路は、90から180メートルの高い壁に囲まれています。

シークには壁龕(へきがん)とよばれるくぼみがあり、神の像などが彫られていました。長いシークを抜けると、岩壁の隙間から建物が見えてきます。この建物こそ、インディジョーンズの舞台となった「宝物殿」こと、エル=カズネ(ハズネ)

岩山に掘られたエル=ハズネの精緻な彫刻は見る人々の心を揺さぶります。赤い岩に彫り込まれた姿は遠路はるばるやってきた旅人の目を見開かせるに十分な衝撃でしょう。エル=ハズネは、もともとナバテア人の王の墳墓として1世紀初頭に造られたものだといいます。ナバテア人の高度な技術がわかりますね。

岩壁に掘られた壮麗な墓やローマ時代の遺跡

エル=カズネを抜け、ペトラの内部へ。狭い谷の道を抜けると岩窟墓が数多くみられる場所に出ます。40以上の墓が連なるこの場所は、ファサード通り。ファサードとは、西洋式建物の正面部分のこと。通りに面した場所のため、きめ細かい彫刻などが配置され、凝ったデザインです。

ペトラのファサード通りの墓は階段状の屋根を持つなど共通のデザインで作られました。来世・天国に向けて階段を上るイメージだそうです。

ファサード通りを抜けると、ローマ時代に建設された円形劇場の遺跡に到着。最盛期のアレタス4世時代につくられ、8,000人以上が収容できます。

ローマ式円形劇場の向かい側の山には王家の墓がつくられました。「壺の墓」「シルクの墓」「コリント式の墓」の3つで、特にコリント式の墓はエル=カズネによく似た建物です。その奥には大神殿と列柱通りが現れます。

ペトラを支えた水利技術

年間降水量が150ミリ、日本の10分の1ほどの降水量しか降らず、砂漠のど真ん中といってもいいペトラ。いったい、どのようにして水を確保したのでしょうか。

ペトラの市内や周辺の山には雨水をためる貯水施設が見つかっています。その数、200以上。冬の短い雨季の間にしか雨が降らないペトラでは雨水は重要な資源でした。そのため、少ない雨を効率よく集める仕組み整えたのです。

また、ナバテア人はペトラの外から水を引く技術も確立していました。ナバテア人は地形をうまく読み、高低差を活用して水源から水を引きます。水道管には陶器を使用しました。

陶器でできた水道管はメンテナンスが必要で、数年に一度は交換しなくてはいけません。不断の努力によってペトラは水を得ていたのですね。

真っ赤に染まる「バラ色の都市ペトラ」は、今も多くの人々を惹きつけている

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この地を訪れた探検家は赤い砂岩でできたこの町を「ローズ=レッド=シティ」とたたえました。シークの先に見えるエル=カズネやかつての古代都市に存在する数々の建造物は訪れる観光客を魅了し続けます。厳しい自然環境はペトラ遺跡の建物群を守り続けました。ペトラを訪れるものが少なく古代の建物が維持されたからです。赤く輝くエル=カズネは、訪れた人にとって一生の思い出となるでしょう。

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