小説・童話あらすじ

HSPの若者へーゲーテ「若きウェルテルの悩み」の魅力を解説!

「ウェルテル」の時代背景特徴について

ウェルテル自身は市民階級の中でも富裕層に属するインテリゲンチャ。教育を受け、ホメロスをギリシャ語で読み、自ら絵を描くなど教養ある人物です。そんな彼が暮らす世界はドイツの領邦国家の1国。この時代のドイツはとにかく貧乏、はっきり言ってヨーロッパの中では後進国でした。そのような描写は作品内にいくつも散見されます。そこを観察するのも本作を読む上での醍醐味。

自然を愛し、幼い子供や弱い立場の人を愛し、そして1人の女性を身も心も焦がさんばかりに愛したウェルテル。彼の書簡(手紙)の文章は感受性豊かな人間だからこそとらえられる世界のきらめきに満ちており、文豪の筆によって著されている詩情は圧巻です。

ちなみに日本で浸透している「ウェルテル」という呼び名は明治時代に訳された関係で実際の発音とは異なります。ドイツ語の音に忠実だと「ヴェルター」。「ヴェルターちゃう!日本人の心の中ではウェルテルや!」と、日本では今も「ウェルテル」呼びが続いていますが……個人的には、ウェルテルのほうが響きがカワイイので好きです。

【こんなところに救われる】世の中を生きづらいHSPが共鳴するウェルテルの姿

image by iStockphoto

ひたむきなあまり、感情が暴走しがちながらも、嘘をつけない率直な青年ウェルテルの人柄は今も昔も若い人の心をつかみます。「若きウェルテルの悩み」はHSPの強すぎる・繊細すぎる感性を極限まで理解し小説として写し取ったような名作。世間で生きづらいと悩むHSPのあなたに、ウェルテルそしてゲーテが、寄り添ってくれます。

ギスギスした「ふつうの社会」になじめない若者の心

「不機嫌は最大の悪徳である」これは物語の前半でウェルテルが断言していることです。HSPは他人の悪意やマイナス・ネガティヴな感情におそろしく敏感。数メートル離れたところで上司が他人を叱っているのだけで気分が悪くなります。そこにゲーテ、もといウェルテルは言い放つのです。「不機嫌は最大の悪徳だ」と。HSPにとってなんと頼もしい言葉なのでしょうか。

ウェルテルは第2部にて公使(外交官)に従って他の地方へ移ります。しかし彼は集団になじめず、気が合う人とは身分違い。他人とうまく距離をとれません。周囲からは嫌がらせや陰口のシャワー。いや、真正面から言えばいいじゃん!第2部のウェルテルの姿はふつうの人たち(非HSP)の集団で孤立し苦しむ若いHSPそのものです。この無理な社会進出が、後半に起こる悲劇の遠因となります。

ウェルテルがロッテに救われた理由は、彼女もまた同じ感性と感受性を持つ女性であり、自分を受けいれてくれたから。ロッテもHSP特有の豊かな感受性と繊細さを持ち合わせる女性。ウェルテルは自分を理解してくれる存在に救われたのですが、最終的にロッテもまた……愛する女性と適切な距離をとれないウェルテルの姿はまさしく悲劇的です。

圧巻の自然描写と、描かれる情緒

IMAGE

若きウェルテルの悩み

Amazonで見る

ウェルテルの心は常に危うく揺らぎ、序盤からすでに死の匂いが作品に漂っています。そんな彼を勇気づけ喜ばせるのは、ロッテの存在もありますが、彼のお気に入りの里・ワールハイムをはじめとした美しい自然。そこに描かれる世界のきらめき、美しさや善良さは、多感なHSPの見る自然の世界そのものですよ。

ぼくたちは、窓ぎわに近よった。雷鳴は空のかなたに去った。はげしい雨がすっかり大地をあらい、さわやかな匂いがあたたかな靄(もや)となってぼくたちのほうへ漂ってくる。ロッテは肘をついて窓にもたれていた。そのまなざしは戸外の風景にそそがれていた。やがて空を仰ぎ、ぼくを見た。

――「若きウェルテルの悩み」井上正蔵訳 より引用

https://www.amazon.co.jp/%E8%8B%A5%E3%81%8D%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%AB%E3%81%AE%E6%82%A9%E3%81%BF-%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%86-ebook/dp/B00AQRYLWU

(井上訳は、ちょっとクセのある新潮文庫の高橋訳よりも読みやすく、筆者的にはイチオシ!)

優れた小説とは、ストーリーではなく世界を作り上げるものです。ウェルテルの目に映る世界はあまりにも美しいもの。絶望に突き落とされてゆく彼と対比するように変化する、ワールハイムの風景もまた圧巻です。

Amazonで詳しく見る

人との距離がとれないウェルテル

ウェルテルはロッテを愛するあまり、彼女に連れられていった人前で持論をふるいながら涙を流し、ロッテに叱られるほど。HSPは夢中になると、人との距離がうまくとれなくなる傾向にあります。相手と自分の境目がどんどんなくなっていくのです。

ウェルテルのみならず、ヒロインのロッテもそれは同じ。彼女はウェルテルを憎からず想っており、自分の感性を理解してくれるウェルテルを、かけがえのない存在のして次第にとらえるようになります。夫のアルベルトとはまた違う頼もしい存在として……。この「親しくなりたいあまり、適切な距離がとれない」感じ、どこかで「自分に似てる」と思ってしまうかも?

またウェルテルは、他人の喜びのみならず悲劇にも非常に深く共鳴するのです。作中、彼はある悲劇的な男の事件に遭遇し深く心をうたれます。そこから彼の運命は本格的に転がりはじめ、ウェルテルは、あまりにも有名な「ある方法」によって破局してしまうのです。

ウェルテル効果……あまりに危うい「自殺」のささやき

image by iStockphoto

筆者は若いころの一時期自殺を考えていました。結局さまざまな本を読んだりして乗り切り、アラサーの現在まで生き延びています。危うすぎる10代の荒波をサーフィンする指南本の1つが「ウェルテル」だったわけですが、この本のどこに救済があるというのか?自殺するほど苦しいなら、もうちょっとこらえて「ウェルテル」を手にとってみてください。その理由を説明しましょう。

次のページを読む
1 2 3
Share: