ヨーロッパの歴史

【絵画】ロマン主義って何?19世紀ナポレオン戦争時代、人の「感情」を描ききる芸術の新境地

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By Master of the Nativity of Castelloメトロポリタン美術館, online database: entry 437000, パブリック・ドメイン, Link

こちらは初期ルネサンスの画家パオロ・ウッチェロの描いた肖像画「女性の肖像」。おすましさんですね。

ちなみにウッチェロは遠近法と計算命の学者肌な画家。「計算ばっかりで想像力が殺されてる!」としばしばロマン主義画家たちから批判の対照となりました。

ロマン主義と対比的な画家の作品として提示してみましたが、いかがでしょう?

【ドイツ・ノルウェー・スペイン編】大地に、歴史に、国により変わる絵画の姿

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By El_Tres_de_Mayo,_by_Francisco_de_Goya,_from_Prado_in_Google_Earth.jpg: Francisco de Goya derivative work: Papa Lima Whiskey 2 – このファイルの派生元: El Tres de Mayo, by Francisco de Goya, from Prado in Google Earth.jpg, パブリック・ドメイン, Link

最後に、ドイツ・ノルウェー・スペインから、ロマン主義を語るにおいて欠かせない画家たちを紹介しましょう。フランスやイギリスとはまた別の絵画世界が広がっています。こちらはフランシスコ・デ・ゴヤ「1808年5月3日」。芸術はその土地の風土や政治状況、民族性・国民性により大きく性質を変えるものですが、これらも同じ「ロマン主義」、感受性・感情を主軸に置いた絵画です。ご堪能ください。

天を見据えるドイツの宗教風景画家カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ

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By カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ – The photographic reproduction was done by Cybershot800i. (Diff), パブリック・ドメイン, Link

カスパー・ダーヴィト・フリードリヒは、ドイツロマン主義を代表する「宗教風景画家」です。……風景画が宗教?詳しく見ていきましょう。

こちらに紹介する絵は「雲海の上の旅人」です。雲の上に突き出た山頂に立ち、髪を風になぶらせ、はるか遠くをながめる男。霧ははてしなく続き、低地の岩や山並みをかすませ、はるかかなたで天と地はとけあっています。モデルはチェコ・ボヘミア地方のエルベ砂岩山地。しかしこの山頂、深読みの仕方によっては、福音書においてはキリストが預言者たちから祝福され、旧約聖書ではノアの方舟がたどり着いた神聖な山・シナイ山のようにも見えます。

彼の風景画は宗教画と同等の神聖さと隠喩を含んでいるのです。冷ややかな氷を連想させるフリードリヒの絵画。「高みを目指す」というモチーフが多く用いられていますが、これはキリスト教の世界観のもと「天の国に届くために高く塔を建てる」といった様式に通じるものがあります。

ノルウェー近代画家の父ヨハン・クリスティアン・ダール

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By ヨハン・クリスチャン・ダール, パブリック・ドメイン, Link

北欧で活躍する画家と言われてもあまりピンとこないかもしれませんね。そんな中でヨハン・クリスティアンダールはノルウェー近代絵画の父と呼ばれています。数あるヨーロッパ風景画家の中でも偉大な人物の1人です。

ノルウェーの当時の状況について説明しておかなければなりません。当時ノルウェーはナポレオン戦争関連のゴタゴタの延長で独立を失い、デンマーク領となった後、スウェーデン・ノルウェー連合王国になりました。ノルウェー国民は独立を求め、民族運動が高まっていたのです。郷土愛は往々にして「故郷の風景」を愛するところから生まれます。ダールの風景画が偉大である理由の1つに、ノルウェー史における民族主義運動を促進したという側面があるのです。

こちらの絵は「スタルハイム、1842」。ダールは実は長いことイタリアやドイツにおり、ノルウェーに帰れない時期が長かったのです。その遠く離れた地でノルウェーの自然を思い出し、帰国後はノルウェー国内の各地を回り、故郷の風景への愛を絵画に表し続けました。寒々しく険しくも立派なノルウェーの風景、愛をこめて表現されています。

恐怖、絶望、苦痛……スペインで最も偉大な画家フランシスコ・デ・ゴヤ

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By フランシスコ・デ・ゴヤ[1], パブリック・ドメイン, Link

怖い!すごく怖い!フランシスコ・デ・ゴヤ「我が子を食らうサトゥルヌス」です。ゴヤはナポレオン戦争における激動のスペインで宮廷画家として活躍し、40歳にして認められた遅咲きの存在ながらも、スペイン最高の画家の1人とされます。しかしその絵は異様で、絶望、悲しみ、狂気の爆発。見る者に脅威の感覚が迫ります。

先に掲げておきました、ナポレオン戦争においてフランスに対しての独立戦争が勃発した際に起こった、反乱者400人以上を処刑した事件を描いた「マドリード、1808年5月3日」の解説をしましょう。銃殺するフランス兵は市民を直視できず全員が眼を伏せています。このようなネガティヴな方向の感情を爆発させる表現はロマン主義の時代ならではです。

ゴヤは40代で不治の病におかされ、聴覚を失います。音を失った以降の後半生において、暗く、激しく、苦しく恐ろしい感情に向き合い、絵画として表現し続けました。このような描き方はムンクの表現技法をはじめ近代絵画に大きな影響を与えています。

時代の激動期、新境地を拓いた芸術運動「ロマン主義」

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それまではルネサンス、古典主義、ロココ様式、新古典主義など、調和の世界を構築してきた絵画の世界。その認識をひっくり返す芸術が生まれたのが19世紀ナポレオン戦争時代。ロマン主義にはダイナミックで感情や感性に訴える素敵な作品がたくさんあります。絵は難しいことを考えて見るのもとてもおもしろいのですが、ただ単に「きれいだな」「こわい!」で構わないのです。自分のビビッときたものをじっくりと眺め、絵と対話してみてください。Rintoには他にも絵画・芸術関連記事がたくさんあります、そちらもぜひ!

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