王冠の体積を図る方法・アルキメデスの原理とは
アルキメデスの発明・発見にまつわるエピソードの中で、もっとも有名な話といえば、やはり「黄金の王冠」でしょう。
ある時、アルキメデスはいつもお世話になっているシラクサの王様から、王冠に関する相談を受けました。
王様はとある金細工職人に金塊を渡し、王冠を作るよう命じたのだそうです。王冠は無事でき上ってきましたが、王様は「もしかしたらあの金細工職人、銀を混ぜて王冠を作り、金塊をちょろまかしたのではないか?」と心配に。
銀は金よりも軽いので、銀を混ぜているかどうか、体積が分かれば密度を調べることができそう。でも、王冠の状態では、体積を測ることができません。
そこで王様はアルキメデスを呼び、「王冠を溶かしたり壊したりせずに体積を測ることはできないか?」と尋ねたのです。これは難問。アルキメデスはこの課題をいったん自宅に持ち帰り、数日間悩みました。
ある日、お風呂に浸かっているときに、あふれる水を見てピンとひらめきます。
「ヘウレーカ!ヘウレーカ!(わかった!わかった)」
アルキメデスはそう叫びながら裸のまま外に飛び出し、今ひらめいた方法をすぐさま検証。見事、金細工職人の悪事を暴くことができたのだそうです。
液体や気体の中で静止している物体(王冠や王冠と同じ重さの金塊)は、それが排除している液体・気体の重量と等しい大きさで上向きの浮力を受ける……。やや難解ですが、アルキメデスは自分が浸かったことによってあふれた風呂の湯を見て、この原理(アルキメデスの原理)を発見した、と伝わっています。
現代でも使われている技術・アルキメデスの螺旋
アルキメデスの発明・発見は、現代の物理・工業部門でも大いに活用されていますが、代表的なものに「アルキメデスの螺旋(アルキメディアン・スクリュー)」というものがあります。
長い筒状の管の中に仕掛けられた螺旋が回転することで、液体や固体を上下に移動・運搬させることができる仕組み。一度に運べる量は少ないですが、場所や素材を選ばず安定して搬送することができるため、現代でもこの仕組みは多方面で使われています。
例えば、炭鉱やトンネルのような閉鎖された空間から水をかき出すシーンや、水力発電など。穀物の搬出用のコンベヤーの仕組みにも応用されています。
もともとは、シラクサの王様からの依頼で大きな船の設計をしたときに、船の浸水を防ぐために考えた排水の仕組みが起源。水夫たちが桶でかき出すよりずっと効率的です。
アルキメデスの螺旋は、「ねじ」「螺旋構造」を実践に用いた初めての例だとも言われています。今では当たり前のように使われているネジですが、アルキメデスのような天才でなければ考えつかなかったであろう、とも言われているのだそうです。
武器も作っていた?投石機は「てこの原理」の応用
先ほども少し触れましたが、アルキメデスは物理の知識を活かし、武器の設計も行っています。その代表が投石機です。
この武器の設計に必要不可欠だったのが「てこの原理」。これも、アルキメデスが証明した有名な理論のひとつとして伝わっています。
てこ(梃子)とは、小さな力で大きなものを動かすことができる道具、または仕組みのこと。固くて丈夫な棒があれば、支点、力点、作用点の位置を調整することで、大きなものを持ち上げることができる、ということを、アルキメデスは2000年前に立証しています。
この原理を発見したとき、アルキメデスは「私に支点を与えよ。されば地球を動かしてみせよう」と言ったとか言わないとか……。後の世に尾ひれがついた可能性はありますので実際にはそんなことは言っていないのかもしれませんが……とにかく、アルキメデス自身の目から見ても大発見だったことは間違いなさそうです。
このてこの原理を活用したのが、大きな石を遠くまで飛ばすことができる投石機。第二次ポエニ戦争のさなか、アルキメデスが発明した投石機は海岸からローマ海軍の船を攻撃。見事打ち破ったと伝わっています。
数学でも活躍・正96角形から導き出した円周率
アルキメデスは数学の分野でも大活躍しています。
様々な定理や計算方法を考案していますが、最も有名なものと言えばやはり「円周率」でしょう。
五角形より六角形、六角形より十二角形と、角の数をどんどん増やしていくと、限りなく円に近くなっていく……。数学の授業でやったような気がする!とご記憶の方もいらっしゃると思います。
アルキメデスは九十六角形を描いて円周率を計算。非常に正確な値の算出に成功しています。
このほかにも、円周の測定のために3の平方根を算出したり、球体の表面積の算出に関する原理を証明したりと、一筋縄ではいかない「円」や「球」と格闘。21世紀にもつながる数学の礎を、2000年前に確立した功績は非常に大きいと言われています。
宇宙を砂で埋め尽くすなら「砂の計算者」とは
アルキメデスのエピソードのひとつに「砂の計算者(砂粒を数えるもの)」というものがあります。
これはアルキメデスの著書のタイトル。巨大数を論じる際、必ずと言っていいほど引き合いに出される逸話のひとつです。アルキメデスはこの中で、「宇宙を埋め尽くすのに必要な砂粒の個数」を計算しています。
なぜアルキメデスはこんな計算をしたのでしょうか。おそらく、シラクサの王様から何か頼まれて(あるいはおちょくられて)、真面目に計算したのでしょう。
豊臣秀吉と曽呂利新左衛門や、足利義満と一休さんのとんち話などと同じような感じのエピソードと考えてよいのかもしれません。
宇宙の広さなど現代でもわからないというのに、アルキメデスはどうやって砂粒の数を計算したのか……。まだ天動説が中心だった時代、アルキメデスは天文学者たちに話を聞きながら、様々な仮説を立て、「宇宙を埋め尽くすのに必要な砂粒の数は、10の63乗より少ない」と結論づけています。
マルチな才能を発揮し多方面で活躍・アルキメデスが「ヘウレーカ」と叫んだ日
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実践的な道具の設計から数学理論まで、マルチな天才として知られていたアルキメデス。今では当たり前のことでも、そこはそれ、2000年以上前のこと。まだ何の道具もなく誰も証明したことのないことを証明できた瞬間の快感は、想像をはるかに超えるものだったに違いありません。きっとあの快感を味わいたくて、新しい発見を求めて模索を続けたのでしょう。足元にも及びませんが、何事にも常に興味を持ち続けることの大切さを学んだような気がします。