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人殺しをしたくなくなる傑作ドストエフスキー「罪と罰」を解説‐殺人・犯罪に走る前にまずこれを読め!

もう挫折しない!「罪と罰」攻略のためのポイント

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しかし「罪と罰」は序盤で多くの人が挫折します(ドストエフスキー5大長編においてもっともエンタメであるにも関わらず!)。ここからは工藤精一郎訳の「罪と罰」を15年間読み倒した筆者が、攻略の秘訣を伝授。最初に断っておきますが、本作品は一度「読んで終わり、満足!」で終わる作品ではありません。伏線や細かな言葉の意味、象徴などを再読、再再読で確認していく、悪く言えば重い本。良く言えば噛むほどに美味しいスルメ本。挫折ポイントとその攻略方法とは?

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罪と罰〈上〉 (新潮文庫)

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〈答え〉初心者は、亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫)を読む

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いきなり訳者を指定してしまいましたが、光文社古典新訳文庫から出ている亀山郁夫氏による翻訳のわかりやすさは素晴らしいものがあります。初心者には断然コレがおすすめ。たとえばロシア文学に挫折する人の多くが、ロシア人名のややこしさに目を回してリタイアします。ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフがロージャとなりロージカになって、ドゥーニャ・ラスコーリニコワと呼ばれたかと思いきやドゥーネチカ……何が何やら。

これを亀山訳は大胆な方法で解決します。父姓で名乗られる部分をすべて「ラスコーリニコフさん」「ポルフィーリーさん」と「さん付け」をしてわかりやすく統一しているのです。またあとがきの解説も充実。コペイカやルーブリなどのロシア貨幣を現代日本の貨幣価値に直すといくらなのか、というところまで丁寧に説明があることから、筆者は初心者に断然、亀山郁夫訳をプッシュします。

ドストエフスキーは工藤精一郎氏(新潮文庫)、江川卓氏(岩波文庫)など各出版社から名訳が出ており、読み比べをするのも楽しみの1つ。亀山郁夫訳が出ていないころに初読の筆者は工藤精一郎訳を読み倒しましたが、めくるめくロシア人名前など自信がない方はぜひとも光文社古典新訳文庫を手にとってみてください。図書館などにもありますよ!

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前半(特に酒場でのマルメラードフの語り)は飛ばす!後半から本気出す

ドストエフスキーの5大長編を全て読んだ筆者は、ドストエフスキー作品にチャレンジしては挫折しているあなたに力を込めて断言します。前半が辛くなったらバンバン飛ばしましょう!ドストエフスキーの「おもしろさ」は上下巻なら下巻あたりから本気だしてきます。前半はほぼ身の上話か伏線です。

正直「罪と罰」も、スヴィドリガイロフが登場してから本格的におもしろくなるので(第4部)、新潮文庫の工藤精一郎訳で読んだとき筆者は「上巻はなんだったんだ」とあぜんとするほど、後半が劇的に楽しいことに驚きました。マルメラードフの語りは完全に「伏線を張るために酒場でくだを巻かせた」感があります。筆者は2度目に読み返す時ようやくマルメラードフの語りに手をつけました。正直初読のときは、「わからない・つまらなく感じれば飛ばす」くらいのアバウトさで大丈夫。

実はドストエフスキーは借金のために多作し続けたため、専門的に鑑賞すると、小説の出来としては結構アラがあります。丁寧に書けているのは処女作の「貧しき人びと」くらい、というなかなかワイルドな作家。でもおもしろい。すごくおもしろい。世界を代表するリアリズム作家、そしてその作品群は「20世紀の預言書」と呼ばれるだけあり、すさまじいインパクトで読む人に迫ってきます。

読書は「他人の人生の追体験」。殺人者ラスコーリニコフの姿を読めば何かが変わる

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「罪と罰」はエンタテインメントです。犯罪はあまりにもリスキーだ……そんな姿をラスコーリニコフを通して見ることができます。この部分を読むだけでも価値があるのに、その上ドストエフスキーは「ではどうすればいいのか」まで提示してくれているのです。「罪と罰」はきっとあなたの心の支えになるはず。また読後、いえ3周ほどしたら、名翻訳者・江川卓の解説本「謎解き『罪と罰』」もオススメ。ドストエフスキー作品にこめられたあんな意味こんな隠喩……ぜひとも読んでみてください。

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