ヨーロッパの歴史

キリスト教って?教えや歴史、教会の事情まで丸ごと解説

インテリ行動派パウロの、異邦人への伝道

イエス・キリストが天に昇ったのち、地上にて教えを継承するために活動をはじめた信者たち。しかし組織づくりの最初は困難と混乱がつきものです。特に頭を悩ませたのは女性信徒のあつかい、異教徒とキリスト教徒の結婚、この教えがユダヤ教の改革派なのか、それとも独立した宗教として成立するかなど。課題はてんこもりでした。

ここに、高名なユダヤ教の学者の弟子であった、パウロが登場したことで事態は大きく転回します。体系だった律法や旧約聖書の教えを学び、何よりもキリストによる奇跡で、直観的に教えの本質を確信したパウロ。キリストは生前、このように言い残しています「世界中の人に神の福音を述べ伝えよ」ユダヤ教圏のみにて信じられていたキリストの教えを、「異邦人」たちに伝えるためにパウロは動き出します。そしてみずからの見解という形で、各地の教会や信徒に「手紙」を書き送りました。これがパウロ書簡です。

13の「手紙」にこめられた願いと希望

生きたイエス・キリストに会ったこともなく、以前はキリスト教徒を迫害し、殺害に賛成までしていたパウロ。その上なんと、イエス・キリスト生前の実際の言葉や教えもほとんど知りませんでした。そのためパウロ書簡には、福音書のキリストの言葉とは真反対のこと言ってるじゃん、という部分があることも事実です。

しかし、現在に伝わる13通もの「手紙」には、迷える素朴な信者をはげまし、使徒や預言者を騙る者への警告、そして「キリスト教」の基礎となる教えや組織、秩序などの見解が書かれています。それは力強く初期信者らを導きました。

行動派であると同時に、インテリの頭脳派でもあったパウロ。無学な弟子や信徒が多かった中で、キリスト教の神学の形を確立できたのは彼のおかげでしょう。「世界中に福音を述べ伝えよ」というキリストの言葉を実現する足がかりを作ったパウロは、3度に渡る伝道旅行ののち、ローマにて裁判にかけられ、処刑(殉教)したと伝えられています。

ゆるすの?罰するの?信じないものはどうなるの?

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ここからは中世以降の世界に舞台を移しましょう。ローマ帝国が滅びたのち、キリスト教はカトリックと東方正教会という二大教派に分裂しながらも、西洋世界に広まりました。その後21世紀にいたる現在まで政治や国家、人、時代の流れや傾向に沿って変容していきます。でも信じないと地獄に落ちるの?その辺も含めて、いざキリスト教の歴史へ。

中世から近世へ、カトリックの増長と宗教改革の混乱

「キリスト教」が現在に近い教義になるまでには、パウロ以降も命がけの議論がありました。異端審問、教科書で習った唯名論などスコラ哲学の論争が繰り広げられたのが中世です。これは反社会的勢力への対処、不満のガス抜き、派閥争いなど信仰とは別の側面も持っていました。十字軍は勢力拡大と資源確保のための遠征。宗教の裏にはつねに世俗の政治と経済、人間の心が動いています。

その後時代が下り、ローマ教皇や枢機卿に堂々と愛人がいたり、その子どもが高位聖職者になったり、堕落と腐敗を重ねたローマ・カトリック。ブチ切れたマルティン・ルターはじめ宗教改革者により「プロテスタント」が誕生したのは、16世紀です。しかしそれは干渉が激しいローマ教皇が気に食わない国家や王がその勢力圏から離脱したいから、という側面を濃厚に持っていました。政治と宗教って難しいですね……。

大航海時代、キリスト教は新世界へ、そして……

「全世界に福音を述べ伝え」る事業は、15世紀の大航海時代からはじまってキリスト教は海を渡ることとなります。アメリカ大陸、アフリカ、アジアにまで伝播しました。しかしコロンブスやピサロをはじめとした征服者たちは、先住民の異教徒(邪教徒)を虐殺し、奴隷化して輸出入することとなります。同じ人間として黒人を見ていなかったのは明白です。

ここで聖書の読み解き方が多種多様であることを踏まえなければなりません。一部の文言を当時の人びとは「黒人を奴隷にすることは神にゆるされた行為である」と解釈しました。また当時は開拓や農業のために、安価かつ手軽な労働力が必要とされていた時代。ここでも神の意思云々とは別の政治的思惑がはたらいていました。

しかしこの奴隷解放運動の根本にあったのも「人は神のもとで平等である」という思想。最終的にこの思想は勝利し、奴隷制度は法的に廃止されました。近代において奴隷制を支持していた教会は現在、謝罪の意をあらわしています。

争いを経て、愛と平和と、ゆるしの道へ

中世以降、政治や権力者の思惑が絡み物騒なことが続いたキリスト教世界。しかし近代になると政教分離が進み、一気にキリスト教の世俗における権力が衰退します。また、20世紀には二度に渡る世界大戦。キリスト教は愛と平和、ゆるしの教えに立ち返りつつあるのです。

20世紀にあらわれたのが「無名のキリスト者」思想。キリスト教の信仰のない異教の信者でも、キリストの教えを無意識に実行し、キリストに祝福されている人がたくさんいる、その人びとは天の国に導かれる、という考え方です。これは異教徒を敵とするこれまでの考えにくらべて画期的な思想。キリスト教徒にも支持されている考えです。

現在では「たとえ多くの人を虐殺したヒトラーでも、そのことに対して一瞬でも心から『ごめんなさい』と言ったなら、神はきっと天国に送ってくださる」という見解も示されています。現在ではキリスト教諸宗派は、他の宗派や宗教と和解の道を模索し、実現しようとしているのです。聖女マザー・テレサはキリスト教の教えを押しつけず、死に瀕した人の枕もとでそれぞれの宗教や信条を尊重して接しました。

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