ドイツナチスドイツヨーロッパの歴史

アドルフ・ヒトラーを題材とした映画3作品を見比べ!「最悪の独裁者」像とは…?

いちいちカッコイイ!映画の1コマ1コマに感動

この映画のすごいところは(筆者もあらためて観て感動したのですが)どこからどう観ても「絵ヅラ」が超かっこいい!のです。映画はほとんどがモノクロで描かれ、一部が表現の意図的な狙いのために赤くなることがある程度。淡々と描かれる、ビジュアル的に美しくも悲惨な虐殺の光景は、まさに黙示録の絵巻です。

さすがは巨匠スティーブン・スピルバーグ。この物語には戦争の悲惨さだけでなく、したたかに生き延びるシンドラーの策や、しょっちゅうピンチに陥るユダヤ人にしてシンドラーの片腕、イザック・シュターン氏のサスペンスなど見どころが満載。またアウシュヴィッツ強制収容所到着のシーンは、実際にアウシュヴィッツ跡地でロケが行われました。

金儲け目的でやってきたシンドラーでしたが、その盛大で最強のお金の使い方は、まさに「正しい資本家」。謎の男シンドラーは何のために動いているのか?わからないまま観るのを続け、最初から最後まで謎が謎を呼ぶ、絶妙なストーリーテリングも見どころです。

大量虐殺を観るのが辛いあなたに別の見方をご提案

ホロコーストの実行される模様が淡々と見事に描かれますが、(500万人以上を6年間で殺戮するのですから、たしかにこういうハイペースでなければならないとはいえ)吐き気をもよおす光景です。筆者も何回も鑑賞を挫折しました。謎の男・シンドラーを軸として語られるこのストーリー。でも暴力的シーンを観るのがキツイ!そんなあなたにオススメの鑑賞方法があります。

このお話、「登場人物の成長物語」という見方があるんです。ホロコーストではなく人間ドラマとして鑑賞することで、攻略難易度がグッと下がりますよ。シンドラーはもちろん、アウシュヴィッツ収容所の冷酷な所長の心理的な変化にフォーカスして『シンドラーのリスト』を観ると……新しい景色が見えてきます。

「メガネのおじさん」イザック・シュターンが生きのびられるかのハラハラ劇として観るのもおすすめ。シンドラーの右腕となって工場経営の舵を取る経理で秘書のおじさんですが、ふしぎな愛嬌があります。もしも観るのがつらくなったら、1つ1つを丁寧に観るのを一度やめて、人びとの心理に視線を注いでみてください。

「帰ってきたヒトラー」(2015年)

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最後に一番ヤバイやつをご紹介しましょう。なんとコメディです。笑っても危険、疑問をいだいても危険、危険度MAX作品。2014年にタイムスリップしたヒトラーが政治ネタを駆使するコメディアンとして大ウケするサクセスストーリー(!?)です。いやみんなヒトラー大好きじゃないですか!軽妙な音楽や俳優の名演も光るコメディ映画の、そしてヒトラー関連映画の中でもピカイチの傑作。

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【あらすじ】『帰ってきたヒトラー』

目覚めたらそこは、2014年のドイツ。1945年ベルリンにいたはずのアドルフ・ヒトラーはガソリン臭い軍服のまま、なんとタイムスリップしていたのです。のんきに観光客からスマホやカメラを向けられ、困惑しつつも自分の立場を把握したヒトラーは毅然と言い放つのでした、「天意だよ、私以外の誰をこの世に呼び戻すというのだ」と。

そんな、腐っても折れることのない彼と出会ったのは、映画監督をめざすもののテレビ局からクビになったばかりのザヴァツキくん。2人はタッグを組んで「ヒトラードイツ全国をめぐるの旅」番組を制作することになったのです。さてどうしたらウケるだろう。ヒトラーが選んだのはなんと政治ネタ!卓越した分析力と圧巻の話術、カリスマ性で人びとの心をつかみ、動画サイトで投稿した動画の再生数は100万超え。「テレビヒトラー」は民放myTVで地上波デビューを果たします。

大ブレイクをかますヒトラーの前に現れる意外な落とし穴。逆境を鋼メンタルで弾き返し、着々と業界トップにのし上がる彼は、ついに自伝が映画化にまで!?あらゆる意味でタチが悪い爆笑コメディエンタテインメント。ラストをどうとらえるかは、あなた次第です。

ドイツの「病みっぷり」が深刻

一度ここで最近のドイツ事情をおさらい。現代ドイツ内政を語るとき外せないのが、外国人問題、移民問題です。トルコ人移民問題は20世紀後半から根深く、安い労働力としての役割がすんだあとは、キリスト教と相性の悪いイスラム教徒ということもあり国内はギスギス模様となっていきました。さらに21世紀に入ってからはシリア内戦などで難民が大挙してドイツに押し寄せます。残念ながら事実として、移民により治安は悪くなり国内は混迷しているのが現実です。でも移民政策をやめないドイツ。

ドイツはユダヤ人虐殺を実行したヒトラーを「民意で選んだ」という「前科」があり、人種差別を責められると、理不尽であっても何も言えないという背景があります。ドイツがEUにおいて移民政策をやめることができないというのもそんな歴史が関係しているんですね。

「民衆扇動罪」でテレビ局が告発されますが、これは「ヒトラーっぽいことやったら違法」という法律です。ヒトラーっぽいヒゲも話し方も思想も、ナチ式敬礼なんて「ヒトラー礼賛だ」と間違いなく違法。逮捕です。そういう意味で見るとこの映画もたぶん違法。まじめに戦争に向き合った『ヒトラー 最期の12日間』だってもしかすると違法。黒い!ドイツの闇が根深い!爆笑しながらちょっとゾッとしちゃう部分もあります。

本当にタイムスリップしてきましたね?

凝りに凝った演出もさることながら、主演オリヴァー・マスッチの名演も光ります。どこから降臨したんですかと言いたくなるような完コピ演技。その上、輝くばかりの言語センス。本作には原作が存在しますが民衆扇動罪のあるドイツのどこで資料を手に入れたんじゃいとツッコミを入れたくなります。

「TVヒトラー」がドイツ中のあっちこっちで「民意」を聞く、というシャレにならない、一周回って爆笑ロケは、実際にアドリブ形式で撮影。極右に襲われるかもしれないという危惧からボディーガードをつけての撮影だったとか。しかし人びとはわりと楽しそうに、スマホやカメラを向けて自撮り祭り。戦後70年、時の流れっておそろしい……。

戦争を忘れた世代に、戦争で犠牲になった人がつきつけた強烈な言葉とは?ヒトラーの「現実」を本当に目の当たりにしたザヴァツキがした決心とは。そしてヒトラーが最後に放つ戦慄の一言……笑っても笑わなくても危険。エンドロールで流れる音楽も秀逸ですよ。

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